きゅっ。 〜T〜-3
「男子校っておもしろいですか?」
「ん〜?男子校ってその名の通り男ばっかでさ、むさ苦しいよ。」
「男性ばっかりってなんか楽しそう。今日は…夜空綺麗そうですね。」
「だったら今度の文化祭おいでよ。」
夜空を見ながら凌は思う。確かに雲ひとつない綺麗な夜空。なんでわかったんだ?俺でさえ夜空なんてなかなか見なくて気付かなかったのに…
「不思議…ですか?」
クスクス笑ってから、説明する。母親が子供に諭すような穏やかな声で。
「視覚が使えない分、他の感覚でいろんなことがわかるんです。目が見えないからって何もわからないわけじゃないんですよ。」
そう空を見上げながら言う美咲の横顔を世界で一番綺麗だ、と思った。と同時にこの世界のあらゆる物を美咲に見せてあげたいと思った。
星が輝く夜空に、ひとり誓った凌だった。
「そっか。俺、目に色々頼りすぎてたんだな。それはそうと、そろそろ敬語やめない?タメなんだしさ。」
「あ…すいま…ごめんなさい。これからは敬語やめるね。」
「ん。それと凌でいいよ。」
「わかった。じゃ、あたしも美咲でいいよ。」
少し離れた場所からライト2つが近づいてくる。おそらく車であろう光。それはどんどん大きくなっていく。かなりのスピードを出しているようだ。
「危ない!!」
とっさに凌は美咲を自分の体で美咲の身を守る。抱き締めるような形で。
「あっぶないな〜…スピード出しすぎだっつの。」
抱き締められている美咲は男の人の感触、包容感にびっくりしつつ、落ち着かない様子である。
「あ…あの…」
「あっ、ごめん。」
パッと美咲を離す凌だったが、もっと抱き締めたいという感情をなけなしの理性で押し殺し
「こ〜しよっか?」
と、美咲のほっそりとした白くて華奢な手をぎゅっと握った。突然触れた手に一瞬びくっとしたが、何故だか安心させられるその手を美咲もまたきゅっと握り返した。
「うん。ありがと。」
月明かりが二人を優しく照らしている、そんな9月終わり頃の夜だった。
「で?」
「で?って?」
翌日。学校の教室で、前後に座りおしゃべりをしていた。きょとんとしている美咲に香織はさらに言葉を付け足す。
「その後、何かあった?」
にんまりした顔と好奇心旺盛な期待したような声色で聞く。
「なんにも無いよ?会ったばっかだし。」
「……。」
やっぱり凌だわ。と、落胆の表情を隠せないようだ。
「香織?」
「あ、ごめんごめん。急に黙っちゃって。」
「次、何かあったら報告するね。」
そう言った美咲の顔はどことなく、これまでとは別の顔をしているように見え、香織はこの出会いがうまくいくように、と秘かに祈っていたのだった。