ラバーン王国のプリンセス-10
5
ボディーチェックを終えたマレーナと二人の侍女は開放され、王女の私室に移動してようやく落ち着くことが出来た。
侍女たちはオズベリヒの従者の監視の元ではあったが、一旦それぞれの自室に戻り、着替えや私物などを持って来ることが許可された。
「たぶん、わたしたちはここに閉じ込められることになると思います」
しばらく不自由な思いをしてもらう――オズベリヒはそう言っていた。きっと軟禁されるということなのだろう、マレーナは二人に告げた。
「あなたたち二人もここで、わたしと一緒にいてちょうだい」
「はい、グレンナ様の分も、私ども二人で……姫様のお世話を……させていただきます」
ファニータが嗚咽を漏らしながら、途切れ途切れに答える。
ずっと気を張っていたのだろう。オズベリヒたちから離れて気が休まったとたん、彼女はボロボロと涙を流した。
「ファニータ様ぁ……」
心細くなった最年少のパウラも、釣られるように泣き出した。
(なんとかしないと)
マレーナは考える。このままでは、二人が精神的に保たない。
「二人とも、泣いてる暇はありません。明日はグレンナのお葬式をしましょう」
彼女は努めて明るい表情を見せ、
「あのままでは可哀想ですもの。わたしがあの男……オズベリヒにお願いして許可をもらいます」
と、侍女たちに言い聞かせた。
「はい。姫様」
二人は涙を拭いながら答えた。主からの指示を受けたことで、彼女たちはほんの少しだけ、気を持ち直すことが出来た。
「それから、パウラ?」
続けてマレーナはパウラに声を掛ける。
「は、はいっ」
「あなたはまず、お風呂に入って着替えるように」
微かな笑顔を見せながら、マレーナは続けた。パウラは汚れた服のままである。
「あ、申し訳ございません。マレーナ様のお部屋を汚してしまって……すぐにお掃除いたします」
「部屋のことはあとでいいから、早く行ってきなさい」
「はいっ!」
小さな侍女は、着替えを両手に抱えて浴室へ駆けて行った。
「国王様とお妃様はご無事なのでしょうか」
パウラを見送ると、ファニータは居住まいを正してマレーナに訊いた。
「それに、ウェンツェル様も……」
「……分かりません。そのことについても、明日になったらわたしが彼に問い正します」
本当は今すぐにでも両親と婚約者の行方を知りたかった。だが、マレーナ自身も心身ともに疲れ果てていた。今はあの男と、オズベリヒと言い合う気力はなかった。顔も合わせたくなかった。
とにかく、今日はもう身体を休めよう。
明日になればきっと――きっと事態は好転してくれる。
そうでなければ、あまりにも酷い仕打ちだ。
きっと――明日になれば――。