憧れの家族-7
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「んっ、んっ、んっ、んんっ……」
夫婦の寝室で、ベッドのスプリングが軋むギシギシという音に合わせ、くぐもった喘ぎ声がリズミカルなハーモニーを奏でていた。
「理恵……」
茉由の誕生日から二週間ほど経過した、週末の深夜だった。武司は後背位のスタイルで、背後から妻を攻め立てている。
武司が抽送を繰り返すごとに、二人の性器が交わる秘所はクチュクチュと湿った音が鳴る。
「んんーっ、んっ、んっ、んっ、んあっ」
理恵は口元を片手で押さえ、喘ぎが漏れるのを必死で堪らえていた。
二人が夜、自宅の寝室で交わるのはこれが初めてのことだった。
娘の茉由が武司に懐くようになってしばらく経ったころから、夫婦は自宅でセックスするようになった。
「こんな時間だし、茉由はもう眠ってるって」
武司は理恵の背中に覆いかぶさると、背骨に沿うようにキスを這わせながら囁く。
「そんなに神経質にならなくてもいいと思うよ」
今、家の中には茉由がいる。だが、ここは木造の安アパートではない。れっきとした鉄筋コンクリート造のマンションである。夫婦の夜の営みで生じる音や声が、別室の彼女に聞こえることは、そうはないだろう。
「でも……あんっ」
しかし、嬌声が部屋の外へ漏れてしまわないかと思うと、理恵は思わず口元を塞いでしまい、思いのまま喘ぐことが出来ずにいた。
「はあっ、はあっ、あの娘、けっこう鋭いから、わたしたちのこと、気づいてるんじゃないかしら。……んあっ」
中学生にもなれば、それなりの性知識もあるだろう。両親が『そういう行為』をすることを知っていても不思議ではない。
「それならそれで、自然な形で知るのなら構わないと思うけど」
武司は高まってくると、背後から回した右手で理恵の乳房を揉みしだき、左手で陰核(クリトリス)を摘み、刺激を加えた。
「ああっ! ダメ、声が出ちゃう……いやらしい声が娘に、茉由に聞こえちゃうっ」
妻の声に武司の腰の動きが自然と早まる。彼女の締め付けが、分身に快感を送り続ける。やがて彼は、一気に絶頂に達した。
「大丈夫だよ、これくらいの声なら……うっ、いくっ!」
昇りつめた武司は、理恵のとろけそうな膣奥に、熱い精液を放出した。ドクドクと注ぎ込まれるそれを胎内に感じ取りながら、彼女も絶頂に達した。
「んーっ! いくっ……んふうっ!」
漏れるの声を堪らえる理恵。下腹部が痙攣し、膣内はヒクヒクと収縮を繰り返した。
「はあ、はあ、はあ」
武司は息も絶え絶えに、再び理恵の背中に覆い被さった。彼女の背中や首すじ、耳に舌を這わせ、口唇で吸う。
武司の身体の重みを感じながら、理恵は自分を支えていた腕の力を緩めてシーツに突っ伏した。
二人の結合が解かれる。武司はサイドテーブルのティッシュを抜き、彼女の秘裂から溢れ出る白濁を拭い取った。ずいぶん手慣れたものだと、彼は自分が少し可笑しく思えた。
「そうだ、いっそのこと――」
うつ伏せのまま、絶頂の余韻に浸っていた理恵は、顔だけ向けると、荒らげた息の合間に、
「あの娘にわたしたちのことを見せちゃうのはどうかしら」
と、思いも寄らないことを口にした。
「え? まさかこれを? その、セックスを?」
彼女の隣に身体を横たえながら、武司は尋ねる。
「そう。お父さんとお母さんがこういう事をして、それで赤ちゃんが生まれるのよって」
「茉由だって、それくらいは知ってるでしょ。もう中学生なんだし」
「学校で教わるのは理屈だけでしょ? 実際にどういうものかは見てみないと」
理恵が奔放な性格なのは知っていたが、まさかここまでとは……武司はどうしてよいものか、判断に困っていた。なにぶん彼にとって、茉由は初めて持つ娘なのだから。
その反面、男女の行為を目の当たりにした時、中学生の茉由がどんな反応をするのか、武司は興味もあった。だが、実際に彼女の前で母親と交わったとして、性行為自体に嫌悪感を抱くことはないだろうか。あるいは自分を「不潔」と罵るかもしれない。そんな不安も捨てきれない。
「あの娘だっていずれはそういうことをするんだし、なにも知らずに臨むよりはいいと思うんだけど。――わたしって母親としては変なのかしら?」
世間的に、年頃の娘を持つお母さん方はどうしているのだろう。武司には考えが及ばなかったが、理恵の考えも一概には間違っていないと思えた。
「うーん、一般的ではないかも知れないけど、間違ってもいないと俺は思うな」
しばらく考えた末、武司は答えた。
「あなたもそう思う?」
理恵は彼に身体を向ける。武司が「うん」と頷くと
「じゃあ、近いうちに茉由もここに呼びましょう」
笑顔を見せると、彼女はさらに続ける。
「そうだ。どうせならあの娘の初体験も、あなたにお願いしちゃおうかしら」
「ええ!?」
思わず大声が出た。
「せっかく茉由と仲良くなったんじゃない。それに、どこの誰とも知れない男にあの娘の処女を奪われるより、母親としては安心なんだけどな」
「ほ、本気で言ってるんじゃないよね? 血は繋がってなくても、茉由は俺の娘だよ? 父娘(おやこ)だよ?」
狼狽えながら、まくし立てる武司。