厄介なアイツ-8
またも狩りが不発となってしまって落胆を隠せない男共の横を、二人の少女が歩いていった。
黒髪のボブヘアーの小さな少女は顔を顰めて啜り泣いており、もう一人の長い黒髪をなびかせた高身長の少女が、肩を抱きながら何やら励ましている。
「怖かったよね?でももうアイツは逃げてどっか行っちゃったし、二度とたまちゃん≠ノ近づかないわよ」
「ヒック…ヒック……ありがと……」
寄り添う二人の少女が着ている黒に近い紺色のブレザーは、偏差値の高さでも有名な中学校の制服だ、
真っ白なYシャツの襟首には真紅のリボンが輝き、そして茶色と薄茶色のシックなスカートは、膝から三センチほど上の長さに落ち着いている。
背の高い少女は二重瞼もクッキリしており、いかにも生意気そうな切れ長な瞳をしていた。
鼻筋は通り、やや大きめの口は唇も薄い。
真っ黒な髪はとても長く、背中の半分に達しようとしている。
小さな少女を包み込む腕は長く、スカートから伸びる脚もスラリと長い。
まるでガールズモデルのような抜群のスタイルだ。
そして泣きじゃくる少女はと言うと……。
二重瞼だが瞳はつぶらで、やや丸みを帯びた顔はかなり幼い。
やや幅広い鼻は低く、ちょこんと突き出た上唇が、あざとくも可愛い。
そして肩に掛からぬ髪がそれに拍車をかけ、更に隣りの少女よりも低い身長はまるで小学生のようだ。
「勇気出して声を出さなきゃ。あんな痴漢するようなヤツ、怖がってちゃダメよ?コッチは全然悪くないんだから」
「……うん!わ、私……ズズッ…勇気出してみる…ッ」
二人の会話からすると、たまちゃんと呼ばれる小さな少女が、あの電車の中で痴漢をされたようだ。
そして背の高い少女が救い出したが、その痴漢には逃げられてしまったのだろう。
とんだ間抜けが居たものだ。
確かにたまちゃんは背も低く、見るからに気が弱そうだ。
ターゲットとしては選びやすいだろうが、近くに友達がいるのに触る≠ニいうのは、『どうぞ捕まえてください』と言っているようなもの。
いやいや、そんなコトはどうでもいい。
その痴漢野郎は、あの電車の中で何を勝手な真似をしてくれたんだ?
あそこは男共のメス牧場であり、私有地の一部である。
おそらく桜庭の起こした騒ぎを利用して上手く逃げられたのだろうが、鼻クソみたいな下衆いカスゴミの分際で、あんな美味そうな少女に手を出すなど、逃げる途中で轢かれて死んでしまえばいいのだ。
『……決まりだな』
『準備は出来てますしね』
佐々木のおかげで中学生にまで守備範囲が広がった男共は、その美少女二人組を次の獲物に選んだ。
目撃はしていないが、長髪の美少女も第二の新庄由芽に違いなく、そして泣き寝入りを選択する寸前だった小さな美少女を、この温かな手で慰めてやらなければあまりに不憫だ。
「グスッ……私のせいで遅れちゃってゴメンね……少し急がないと……ヒックッ……テスト近いんだし、学校に遅れたら大変だよ……」
どこまでも優しい娘だ。
痴漢被害を両親に報告せず、自分の足で中学校まで歩いていくと決めてくれた。
一旦駅に戻って両親の車で送ってもらうと選択されたなら、今日の狩りは不可能となる。
いや、我が子の安危を案じた両親が、毎日送り迎えをするようになる可能性もあるし、そうなれば〈彼女〉の事を諦めるしかなくなる。