ヒジリ-7
最近では銀色の物を目にするけでも気分が悪くなる。
したがって、あたしが時田を受け入れる事は無い。
「え?!今来たばっかじゃん、帰んの?」
立ち上がったあたしの腕を強引に引き、時田はそう言った。
『触らないでくれる?あたし、銀って嫌。』
あたしは勢い良く時田の手を振り払った。
「やっぱね。」
時田はそう意味不明な言葉を口走り、真っ直ぐにあたしを見つめた。
「銀、着けただけで体調悪くなる?」
『なる。』
あたしは時田に素直に答えた。
「聖はさ、霧消に男が欲しくなって男と関係を持つの?」
―あぁ、5年前から毎日そうだよ!!―
と、そう思ったが、口にはしなかった。
『ん、大体そんな感じ。』
「やっぱね。」
時田はまた同じ単語を発した。
「俺の事は欲しくならない?」
『ならないよ。』
あたしは即答した。
「なぁ聖、昨日言ったじゃん、仲良くしようやって?」
『あんた、あたしとしたいって事?!』
あたしは苛立ちを隠さずに告げた。
「俺は、お前を普通の女の子に戻してやれる。」
『何言ってんの?!訳わかんないし!』
「いいから黙って着いてこい!」
結局、あたしは時田に強引に押し切られてしまった。
そして時田に手を引かれるまま学校を後にし、ある一件の屋敷の前へ辿り着いた。
「ここ俺んち。」
確かに重厚な純和風建築の家屋の前にある巨大な門には〈時田〉の表札がかかっている。
がしかし、この純和風建築の建物に、どうしても時田ははまらなかった。
「入れよ。」
そう促され、あたしは時田と共に屋敷の門をくぐった。
門の先に広がっていたのは手入れの良く行き届いた大きな日本庭園と池、そして門をくぐる前よりも威圧感を増した重厚な家屋だった。
一体この家の敷地は何坪あるのだろうか?
そしてこんな家に済む時田とその家族は何者なのだろうか?
とても全うな稼業でこんな家が建つとは思えない。
「こっちだよ。」
時田がそう指差したのは、中央の一番大きな建物だった。
『本当にここ、あんたの家?』
「そっ。」
それがさも同然かの様に時田は言い、あたしはそれに少しの疑心を持った。
『あんたの親、何してる人?』
「呪術師。」
聞きなれぬ言葉に、あたしは語尾を上げて言った。
『それ、何?』
「他にも占とか、降霊とか、霊媒師とか、もののけ相手にとか…色々やってるみたいだ。」
まったく、益々訳が解らない。
「まぁ、あんま考えるなよ。」
そうあっけらかんと言う時田に、少々の怒りを感じる。
『つぅかさ、逃げないから手ぇ放してよ!』
そう、時田は学校を出て以来、ずっとあたしの腕を掴んでいた。
時田の指にはめられた指輪があたしの腕に食い込み、その場所がアレルギーのせいか赤くなっている。
「駄目。放したら、お前はここにいられない。」
有無を言わさぬ口調で時田は言い、手に込める力を更に強めた。
『いっ、痛いって言ってんだよ!!』
あたしは我慢の限界とばかりに時田に猛抗議した。
「じゃぁ、試してみる?」
冷たく言い放ち、時田はあたしの腕を強く掴んでいた左手を放した。
その途端、あたしの視界は上下左右に激しく揺れ、体中が締め付けられるような感覚に陥った。
『っく、………うっ!』
同時に息苦しさを覚え、あたしは膝から崩れ落ちた。
だがそれを止めたのは時田の腕だった。素早く伸びてきた時田の2本のそれは倒れるあたしを抱き止め、優しく包み込んだ。