消えた西進不動産-3
(何かがおかしい…。普通ならもっと荷物をまとめていなくなるはず。これじゃあどうぞ調べて下さいと言ってるようなもの。どこに見つかりたくない書類が紛れてるか分からないし、万全を期してすべて処分するわよね。それなのに書類から何からほぼ残ってるし。今から営業しますよと言えばすぐにでも業務に取り掛かれそう…。)
若菜は机の引き出しを開けたりパソコンの電源を入れてみたりしながらそう思った。しかし証拠隠滅をした気配がない。最重要な物的証拠は抜いたんだろうが、それにしてもズサンな逃亡劇に首を捻る。
(もう全部用無しって事?大事な物証を抜く作業を考えたらすっからかんに運び出した方が楽よね。なのにそれをしなかった。手間を省いた…。手間を…、手間を省く…?も、もしかして…!)
若菜は大きな衝撃を受けたと同時に心臓が飛び出してしまうぐらいに激しく鼓動する。
「華英ちゃん!白澤さん!今すぐに表へ逃げて!!」
物凄い形相で2人に叫ぶ。
「えっ…?」
いきなりの事に2人はポカンとしていた。
「とにかく逃げて!急いで!!」
若菜は2人の背中を押し玄関に向かう。
「な、何があったんですか!?」
「あったんじゃない!あるのよ!!」
興奮気味の若菜に背中を押され、訳が分からないまま玄関から押し出され、そのまま車の方に走る。
その時だった。3人の背後から激しい爆発音が響いた。
「キャッ!」
「うわっ!」
3人は熱い爆風に飛ばされ道路に倒れ込む。手足が擦りむけた痛みに気付かない程の熱を感じる。気付けば華英と白澤を守るかのように若菜が2人の体を覆っていた。
「えっ?えっ?…あっ…!」
華英が振り向き西進不動産のビルを見ると激しく炎を上げ燃え盛る光景を目の当たりにする。華英は、すぐにはその爆発が自分の身に降りかかった事だとは理解出来なかった。ただ燃え盛るビルに目を奪われ、客観的に火事をテレビニュースで見ているような気持ちだった。
「まさか…」
白澤は理解していた。西進不動産ビルが爆発した現実を。ただ信じられない光景に絶句し、炎を見つめていた。
「あ…、う、上原さん…!」
白澤が自分の背中に覆い被さっている若菜に目を移す。服は爆発でボロボロになり髪も少し焼けている。そして顔や服はすすで塗れている。ぅぅぅ、微かに呻く若菜に白澤は心臓が止まりそうになった。