月灯りを求めて-1
月灯りの中、私と妻は全裸だった。月灯りは大きな窓から真っ暗にした部屋に入って来ていた。その夜の月が特別に明るいのか、あるいは、そもそも、都会で見る月とは、その明るさが違うのか、私たちは、そんな話をしては笑い合った。まるで、十代のカップルのようだな、と、私は思った。
窓には、うっすらと私たちの裸が写っていたのだが、部屋の照明を落としていたので、その姿も、いくらか若いような気がした。地方に来ているとはいえ、私たちが泊まっていたのは主要駅のホテルだったので、見下ろせば、そこには深夜の街があり、大きな道路があった。五階の窓ゆえに、まさか、どこかから見られるということもないのだろうが、全裸でそこにいるのを少しばかりためらうほど、その窓は大きかった。
「露出プレイというのは、こんな感じなのかな」
「部屋を明るくして、窓にアソコを押し付けて露出してみればいいよ。もっとも、それじゃあ、外からは見えないとは思うけどね。あるいは、これから、全裸にジャケットだけ羽織って散歩にでも出かけてみようか。下着も、スカートさえ履かずに」
「そして、どこかの路地で全裸にされて、そこでオシッコをさせられるのね。いえ、そこでオシッコを飲まされるの。素敵ね」
「ずいぶんな変態になったものだね」
私たちは、その日、地方のホテルで二人ともがMだというカップルと会う予定をしていた。東京から車で四時間かけて、その街まで来たところで、男から電話が入り、急に彼女が熱を出してしまったので、今回は自分一人で、と、言ってきたので、会うことを拒否したのだった。三人でのプレイが嫌なはずもない。それは何度もしていた。男がMというのも、今の妻は嫌いではない。ただ、カップルでプレイしたいと言うのに、彼女が熱を出したから自分だけという態度が私も妻も嫌だったのだ。もしかしたら、彼は最初から一人でプレイするつもりで嘘を言っていたのかもしれないが、嫌なのは、そこではない。私なら、妻が熱を出したら心配でプレイどころではないので、相手には悪いが事情を説明して謝り、プレイを延期してもらうだろう。一人でプレイをしたって楽しいはずもないし、そんな男なら、妻も安心して性の遊びなどしてこなかったことだろう。
男が最初から嘘を言っていたにしても、一人になった理由がそれではダメなのだ。上手に嘘を言うなら、やっぱり、ギリギリで複数プレイを嫌がりふられてしまった、と、そう言えばよかったのだ。そうすれば、その嘘の話に同情して私も妻もプレイをしたかもしれない。嘘とは、そうしたものなのでないだろうか。
「月、綺麗ね。こんな夜は、セックスなしで、全裸で語り合うのもいいわよね」
「それは、また、文学的だね。嫌いじゃなよ。せっかくなら、お互いに知らないところの、子供時代のエッチな体験について告白し合うというのはどうかな。話をしている側は常に聞いてもらっている側に身体を弄ばれている、と、そんな条件で、ね」
もしかしたら、このホテルに誘った男は、カップルを騙し、東京から、わざわざ、ここまで来て、ホテルまでとっていたら、もったいなから、男一人でもいいから遊んで行こうと思うだろう、と、そう考えたのかもしれない。
もし、そうなら、それは愚かなことだ。二人で遊ぶことが楽しい夫婦だからこそ、複数で遊ぶことも楽しいのだ。一緒にいること、たとえば、一緒にドライブしていたり、お酒を飲んでいたり、食事したり、買い物したり、もしかしたら、ただ、一緒に歩いていても楽しいからこそ、セックスも楽しいものなのだ。そこに気づかなければ他人を入れたセックスの楽しさは分からないし、そこが分からなければ、そんな趣味に男も女も、合わせたりはしないものなのだ。
「ねえ、それじゃあ、たまには贅沢して、シャンパンでもとらない、ルームサービスにあったみたいだから」
「よくチェックしているねえ。それもいいけど、どうだろう、せっかく、ここまで来ているんだから、地元の居酒屋で魚でも食べながら日本酒というのは」
「私はシャンパン、アナタは日本酒なのね。じゃあ、こうしましょうよ。しばらく外を歩いて月を見ながら飲める店を探して、そこが居酒屋でもフレンチでも、そこで飲む、どこもなければ、食事だけして、ここに戻ってシャンパン」
「悪くないね。若い頃に戻った気分だ」
「ところで、それはどうするの。アナタ、そこまで若者に戻っているみたいだけど、月灯りを見ながらする。それとも、一度は我慢して、外に行きます」
私のそれは見事に天を向いていた。しかも、それは、いつもよりも大きくなっているような気がした。もしかしたら、それは月の魔力だったのかもしれない。それなら、居酒屋かレストランでこっそりそこを大きくしているのも悪くない、と、そう思った。そして、その時、妻も、こっそりとそこを濡らしていてくれたら、それは素敵なことだな、と、そうも思った。