八代将軍吉宗-1
おまけ【大樹八代の影、お露】
【八代将軍吉宗】
(いかぬ!)
天井裏から様子を伺っていた女は、眼下の男が下座に座る男を前に、苛々し始めている事に気付いた。
(少し怒気を抜いていただかねば)
苛烈なその男が、怒りのままに振る舞えば、周囲に与える影響は計り知れない。
「にゃ〜お」
危惧した女は、猫の鳴き真似をした。
「ん?」
微かに聞こえる鳴き声に男の眉がピクリと動いた。
「お露(つゆ)か…」
女の名前を呟いた男の怒気が少し薄れていた。
「その件は後じゃ。皆の者、遠慮いたせ」
男は周囲に控える者達に声をかけた。
「し、しかし、お答えをいただかねば…」
「もう一度言わす気か」
一瞬で男の眉ねに怒気が戻った。
「ひっ…」
ここで、部屋を出る事を躊躇すれば、更に主の癇気に触れる。
「も、申し訳ございませんでした」
それに気付いた男は、腰を抜かしたまま慌てて部屋を後にした。
それまで多くの者が罷免されたのを見ていた小姓や警護の者も、そそくさと部屋の外に出ていった。中には緊張から解放されて、安堵の表情を浮かべる者もいた。
人々が退出したが、お露は閉じられた襖の外の気配を伺ったまま、さらに一拍の間を置いた。
「ふふふ、臆病な雌猫め、早く降りてこい」
男はお露の慎重さを笑った。
「畏れ入ります」
そう返したお露は、すたりと降りると、主である八代将軍徳川吉宗の前に平伏した。
「何ようじゃ?」
「はっ、少々報告の儀が」
伏せた顔を僅かに上げて、お露は答えた。
「うむ。苦しゅうない、近う寄れ」
鷹揚に頷いた吉宗はお露を手招きした。
「はっ」
懐に隠し持つ武器が無いことを示すため、お露は忍び装束を素早く脱ぎ、全裸の状態で吉宗に近づいた。
「ふふふ、相変わらず律儀な事よのお」
吉宗は、それが当然のように曝された乳首に手を伸ばした。
「あううっ」
将軍の力強さを、お露は乳首に感じながら、女の密かな隠し場所にも何も無い事を示すため、足を開いた。