フェミニンマインド、大飛躍-6
(あの電話から聞こえた女の声、一体どこの誰なんだろう。)
俺に任せろ的な言葉を残して事務所を出て行った割には、みんなが工場探しで奔走していると言うのに女とヤッていた事に腹を立てていたはずが、気になるのは鉄平が抱いていた女の事だった。だがどちらにせよ胸がもやもやする。それが怒りなのか他の何かなのか釈然としない胸の内が自分でも分からなかった。
そんな事を考えているうちに会社に着いた。エレベーターに乗りオフィスまで着くと大半の社員がもう出社していた。
「おはよう。」
「あ、おはようございます。」
何となく雰囲気がどんよりしている。それは増産をお願いする工場がまだ見つかっていないからなのは明らかだった。めぼしいところはもう既に昨日の夕方から電話し断られている。だが再度電話してもう一回お願いするしかない。だから無理だって言ったろう、しつこいな、そう言われる事は必至で、誰だってそんな言葉を返され辛い思いはしたくない。そんな社員達の気持ちを汲んで、都姫は決断した。
「初めから数量限定を告知してるから、私達に間違いはないわ?取り敢えず1000着に達した時点でソールドアウトになるよう設定してある訳だし。世間も納得してくれるはず。だから今回は諦めましょう。予定通り各1000着売り切りで今回の受注販売は終わり、で。」
それが苦渋の決断である事は全社員が理解していた。都姫がより多くの人の手元に服を届けたい気持ちも、もし増産出来れば莫大な売り上げになり、一気にフェミニンマインドと言う会社を大きくする事もでき、片田舎の企業から、全国区の企業に成長できるチャンスだ。だがそのチャンスをモノに出来ない悔しさはやはり全員が理解していた。
「じゃあ今回は完売御礼を告知して、お客様にお伝えしましょう。井上君、ホームページ、ウェブショップに告知を出して。」
「は、はい…、分かりました…。」
あまりに重々しい雰囲気と落胆に全員が忘れていた。その忘れられていた男がようやく登場する。オフィスのドアが開いた瞬間、みんなが振り返る。そしてその姿は朝日を背に受け、神々しく光り輝いているように見えたのであった。