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ある熟女の日々
【熟女/人妻 官能小説】

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青春時代の思い出-1

 待ち合わせの場所で相手と落ち合えば、2回目からはすぐにホテルに向かう。ホテル街を行く男の後を付かず離れずで付いていき、男がスッとホテルに入っていけばそのまま追いついてチェックインする。

 今まで知っている誰かにばったり会ったことはないけれど、どこに目があるかわからず、ましてやホテル街のようないかがわしいところでは、男と腕を組んで歩いたりするわけにはいかない。実際、そんなカップルは外国人でもない限り見たことはない。

 かと言って、帽子を目深にかぶってサングラスでもしていたら、いかにも後ろめたそうでかえって目立ってしまうのは間違いない。これも実際、そんな出で立ちの人は見たことがない。そういう意味では、地元のおばちゃん…みたいな体で、部屋着のような格好で歩くのがよいような気もするが、そこは紳士と淑女の逢瀬。それなりに最小限必要と思われる装いにはしている。

 そのような訳で、『用事先がこの通りの向こうにございまして』…といった風情で、少し足早ではあるけれど、後ろめたさを気取られぬように、敢えてうつ向くこともなく歩いている。

 「ぼくは●●町が好きでしてね…」

 男が射精してわたしから身体を離すと、いつものようにタバコをくゆらせながらつぶやく。

 「…なので、家から少々時間はかかるのですが、貴女とお逢いするときは●●町って決めているんです」
 「そうなんですか…。何か理由でもおありなんですか」
 「理由というほどでもありませんが、もう大昔ですが、ぼくはここからもう少し向こうの街で暮らしてましてね。ここの前のとおりも毎日歩いて駅まで行っていたんですよ。もう離れて何十年にもなりますが」
 「じゃあ、お地元なんですね。お知り合いに会ったりされたりも…」
 「いやいや、学生の頃に暮らしていただけなんで、もう知り合いなんかもいなくてね。ただ、街並みというか雰囲気というか思い出というか…そんなのが好きなものですから」

 男の答えを聞いて、両脇にそういうホテルが立ち並んでいる通りだからと言って、『後ろめたさ』ばかりを気にして、用事の行き帰りに誰かと会うことをおそれている自分が少々恥ずかしくなった。

 言われてみれば、すれ違う人も全員が全員『後ろめたい』用向きで通りを歩いている訳ではないこともわかる。この町にしても、全部がホテル街であるわけではなく、ホテルが尽きた向こうには住宅や商店も多々あって、そこからこの男のように駅に向かう人も少なからずこの通りを歩いているのだろう。『後ろめたい』気持ちが自意識を過剰にさせていただけなのだろうと思えてくる。

 ただ、正直なところ、ホテルに向かうときは、男がどのホテルに入るのか見失わないように気を付けながら、後をつけているだけで、逢瀬も終わって駅に向かうときも、ただただ無事にホテル街を抜けて駅の雑踏に紛れたいと思っているから、街並みとか雰囲気のようなことまでは気が回っていなかった。

 「貴女は●●町には思い出はありませんか?」
 「お…思い出?」

 不意を衝かれるようなことを尋ねられて少し驚く。大都会とは縁もゆかりもない地方から出てきたわたしにとっては特に思い出などというものはない。強いて言えばこの男との逢瀬がほとんど●●町というだけ。

 「突拍子もないことを伺ってすみませんね…。その…いつかお話したいと思っていたんですが、ボクが大昔住んでいたときに近所の家で家庭教師のアルバイトをしてましてね…」
 「ええ…」
 「それで…教えていた子供のお母さん…そのお母さんの雰囲気がね、貴女の雰囲気によく似ているんですよ。清楚で上品でね…」
 「まあ…わたしには当てはまらないと思いますけど…」

 男が2本目の煙草に火をつける。男の話は、要すれば、その母親に童貞を捧げた…というものだった。ある日、家庭教師の曜日を間違えて家を訪ねていった際に、母親から誘われてこの通りにあった連れ込み旅館で…ということらしい。


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