搭乗口のHUG-7
中途半端な咀嚼で飲み込んだ味玉の黄身に軽くむせる。
「いよいよになったら転職っていう手段もあるけど……でもお兄ちゃん、いまの仕事好きなんでしょ?」
「けほ、けほ。あ、はい、まあ。航空会社の仕事は合ってると思います」
それは正直な実感だ。
「お兄ちゃん、しのちゃんに勉強教えるの上手だ、ってさおりさんが言ってた。そのことうちの先生に話したら、沖縄の進学塾経営者に知り合いがいるから相談してみてもいいよ、って。ちなみにお兄ちゃん、大学の学部って」
「商学部です」
「教員免許は?」
「持ってないです」
「そっかー。免許持ってて、英語と数学が教えられたらどこの塾でも引く手あまたなんだって」
「数学が無理っぽいですね、小学生の算数が精一杯」
怡君さんと二人で顔を見合わせて苦笑いした。でも、そういう話を怡君さんと怡君さんのだんなさんがしてくれていたのが、ちょっと嬉しかった。
新学期が始まって、しのちゃんは無事宮古島の小学校で3年生になった。
22人いる同級生のうち三分の一くらいが東京や茨城、盛岡、姫路、久留米などから移住や転勤してきた家庭の子供で、つまりしのちゃんと同じ転校生という境遇の子が多く、しのちゃんはその子達を中心にどんどん友達が増えていっているらしい。さおりさんが毎日のように送ってくれるしのちゃんの写真や動画にはよく、同級生の女の子が、それも何人も、一緒に写っている。
その中でいちばんツーショット率が高いのは柚希ちゃんの妹の真奈ちゃんだ。さおりさんのお店のテーブルで一緒にご飯を食べるしのちゃんと真奈ちゃん、小学校の正門前でおどけたポーズを取るしのちゃんと真奈ちゃん、自宅近くの砂浜に並んで立ってダブルピースを決めるしのちゃんと真奈ちゃん。どの写真のしのちゃんも、とても楽しそうに笑っている。さおりさんも写真に「とりあえず一安心」とコメントを添えてきた。
そのしのちゃんの隣で、しのちゃんに負けず劣らず天真爛漫な笑顔を見せている真奈ちゃん。印象どおり活発な小学4年生なようで、写真の中の真奈ちゃんはいつもショートパンツだ。すらり、としてよく日焼けした、しのちゃんよりは柔らかさを感じるけれどまだ綾菜ちゃんほどには女の子っぽくない太腿。そして、ここは姉の柚希ちゃんによく似て無防備さを感じるほどに無邪気に開いた笑顔の口の、永久歯が揃い始めた歯列とピンクの歯茎。そこから漏れているだろう、真奈ちゃんの10歳の息臭を想像しているうちに、ペドフィリアとしての正直な衝動がベッドの中で睡眠に入る直前の俺を襲った。なんというか都合のいいことに、今日さおりさんが送ってきた写真は、日当たりのいいビーチに並んでしゃがんで笑っているしのちゃんと真奈ちゃんで、順光に照らされた真奈ちゃんの膝の向こう、ショートパンツの少し捲れた裾とまだ細い太腿との隙間から、ちらり、と女児パンツの足ぐりのあたりが覗いている。
ためらいもなくルームウェアのハーフパンツとボクサーショーツを下ろし、床の上の箱ティッシュを二、三枚引き抜く。もうとっくに勃起している陰茎を右手で軽くしごきながら、左の中指をスマホカバーのリングに入れてスマホを支え、親指と人差指で画面をピンチして真奈ちゃんの笑顔を拡大する。
くああ、かわいい。この左側だけの八重歯、ちらりと覗く上の歯茎、頬の小さなえくぼ。しのちゃん、今夜だけはごめん。真奈ちゃんがすっごくかわいいから、今夜は許して。
真奈ちゃんの笑顔を見ながら、真奈ちゃんの小4の息臭を想像する。柚希ちゃんの息臭としのちゃんの息臭の間くらい、綾菜ちゃんの息臭をもう少し子供っぽくしたような、という、ミラモールや「こども飛行機体験」で嗅いだ小学生たちの息臭を記憶した海馬から分析した、いちばん真奈ちゃんの年齢や見た目でリアリティのありそうな息臭を脳内で創造する。そして、ピンチを解除し、生足のひざ小僧と脛、そしてショートパンツの裾からチラリしている女児パンツを見て、右手の動きを加速させる。真奈ちゃん、しのちゃんのこと、これからよろしくね。そして、俺のおちんちんも。く、くぅぅぅ、あああ。
射精の瞬間、画面が元の表示サイズに戻り、真奈ちゃんのとなりで両手に頬を当ててしゃがんでいるしのちゃんと目が合う。もー、お兄ちゃんは、真奈ちゃんできもちよくなったりして、ほんとにへんたいなんだから。しのちゃんが呆れて笑いながらそう言っているような表情に小声で、ごめんね、とささやきかける。
もうすぐこの街の桜も満開になる。俺もいろいろとテンションを上げて、もう一度異動のチャンスがめぐってくるように頑張らないといけない。そういうテンションを続けたい。そう思いながら、射精のあとの心地よい疲労感に包まれて最初のノンレム睡眠に入った。今夜もよく眠れそうだ。春の陽気に合わせて俺の睡眠が、しのちゃんの友達が増えるに連れて俺の射精が、さらに良質なものになればいい。
このときはまだ、こんな能天気なことを考える余裕があった。それからしばらくしてしのちゃんを見送った日以上に泣く日が訪れるとは、新しくオナペットが増えたことを喜んでいるただの変態には想像のしようがなかった。