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月灯り
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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自分を見せたい-1

 言い難そうにしてはいても、確かに、いきなり失礼な質問だった。コンプレックスがないわけがない。不安がないわけがない。妻が若い男の体力に魅了されるかもしれないこと、大きな男性自身に熱中して、私のそれに物足りなさを感じるようになってしまうかもしれないこと。不安とコンプレックス、私にはそれしかなかったのだ。
「自分のそれに自信がない。自分のセックスのテクニックに自信がない。自分の体力にも自信がない。でも、だからこそ、妻には私以外の男性と寝て欲しいって思ったんですよ」
「しかし、それなら」
 私は男の質問を遮って話を続けた。なぜなら、男が質問したいことは分かっていたからだった。
「では、こう考えてはどうでしょうか。私は料理が上手じゃありません。食材を見抜く力もありません。それでも妻には美味しい物を食べて欲しいんですよ。だから、レストランに行くわけです。そこで妻が美味しいと喜ぶ、その後、どうなるでしょう。自分の旦那には、こんな美味しい料理を作ることが出来ない、自分の旦那には、こんな美味しい食材を用意することが出来ない、だったら、この料理を作った料理人と恋愛したいって、そうなるものでしょうか。まあ、そんなこともあるかもしれませんが、普通には考えられませんよね」
「セックスは料理じゃないでしょう」
「料理はセックスより大事だと言う人もありますよ。しかし、料理が美味しいというだけの理由で結婚はしないでしょう。セックスでも、それは同じですよね。それだけで恋愛になることはないでしょう。それなら、美味しいと喜ぶ妻の顔を見たくてレストランにも行くし、こうした遊びもする、それは、同じことなんじゃないですかねえ」
 妻は、まるで、首を振る人形にでもなったように、無言で、その細い首だけを縦に動かし続けていた。ときにゆっくりと、ときに早く。
「コーヒー、新しいの淹れましょうか、すっかり冷めてしまったようですから」
 ようやく妻から出た言葉がそれだった。
「いえ、一度、食事に行きましょう。このホテルで食べますか。それとも」
 男がそう言ったので、私は近くのレストランに予約があることを彼に告げた。
「本当は、私がご馳走出来ればいいのですが、私、こうした遊びをする夫婦と食事をするのが嫌いなんですよ。何だか、夢の世界に生活が持ち込まれるようで嫌なんです。すみません」
「いえ、私たちも、食事は二人きりのほうが気楽ですから、かえって助かります。メールで書きましたが、ベッドを汚すかもしれないのですが、それは大丈夫ですか。そうしたシーツを用意していますけど」
「いえ、お二人の性の匂いに包まれて、惨めに一人で寝るのが私の無情の悦びですから、それは、遠慮させてください。それから、次にこの部屋を訪れた時には、私のことは、小間使いとして、いえ、道具として、それも性の道具ではなく、ただの道具として扱ってください。ティッシュとかタオルとか、そうした道具だと思って。その上で、お二人で、本気で愛し合ってください。こんなお願い、していいかどうか分からないんですけど。もし、旦那様がよろしければ」
 私は彼の言葉には無言のまま、その首を縦に振るだけで答えた。今夜は、今までの遊びとは違う、今夜は、私が本気で妻を抱く、そして、その補助具として、この男を使う、いや、それも違う。私は見せたくなっていたのだ、この男に、自分が本気で妻を抱くところを。この遊びで、はじめて、私は妻ではなく、自分こそを男に見せたい、と、そう思ったのだった。


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