ガリガル2!!-2
チャイムが鳴る。四時間目終了と同時に、私たちトリオはいつものように机を三つ、器用にくっつけお弁当を広げた。
二人は私に向かって「イタダキマス」と手を合わせる。私が「食べてよし!」と言うと、いそいそと蓋を開け、唐揚げをほぼ同時に口へ放り込んだ。
「うンまぁーい!」
「本当、チィは料理上手だよねぇ。リスペクトしてます」
「ありがとっ。まぁ、これくらいしか、取り柄ないから」
私も唐揚げを一つ食べてみる。うん、成功。
「はぁ!?何言ってんの!チィはテニスで全国行った人間なんだよ?しかも、もう大学も決まってるし…。運動出来るし、頭良いし、料理上手だし…」
アリは大きな目を、さらに大きく見開き私を熱弁している。しかも、ベタ褒め。そこまで言われると、さすがに照れてしまう…。
「アリぃ、それは言い過ぎだって…」
褒めちぎるアリを私は制すが、それはどうやら無駄なようだった。モコがいることを忘れていた…。
「全然そんなことないっ!!だって、チィは何でも出来て超カッコイイもん!」
―カッコイイ…。
「あたし、チィとだったら付き合っていいもんーっ!」
「あ、それアリも思う!!女の子でもいいよねぇ」
明らかに冗談で笑い合える筈の会話は、私にとって『冗談』なんかじゃない。いつもと同じように「もう、嬉しいこと言っちゃって!じゃあ、二股しちゃおうかなっ」なんて言っているけど、内心は、ズキズキと心臓が痛み、震える声を笑い声で必死にカバーしている。気を抜くと涙が溢れそうになるから、私は歯を強く食い縛った。
私は自分の外見がすごくコンプレックスだった。
テニスをする上で邪魔だったので、小学生の時から髪型はベリーショート。肌は日焼けで、浅黒く、手足には筋肉が付き、女の子らしい柔らかさなんて少しも無い。
制服だって、自分には似合わないだろうと思い、入学当初から何もいじってない。スカートは、膝下では無いにしろ膝頭が見えるくらいで、モコやアリに比べれば相当長い。化粧はもちろん、したこと無いし…。
普通の女の子らしく、化粧もしたいし、髪型可愛いくしたいし、スカートも短くしたい。私だって『可愛い女の子』になりたい。だけど、今更という思いがあり、勇気がなくて出来ないのが現実…。
そんな私にとって『カッコイイ』は褒め言葉ではなく、ただ自分を更に追い詰めるだけの最も聞きたくない言葉だ。
「チィ、チィ?おーい」
アリが私の肩をポンと叩いた。それで、はっと気が付く。
「ん?何?」
何事もなかったような私の声。
アリは、机の上に置かれた私の携帯電話を指差しながら
「メール」
と用件だけを完結にまとめた。
見ると、バイブがブーブーと鳴っていてプライベートウィンドウに「新着メール」と表示されている。
携帯電話を手に取り、何度かボタンを押して、メールの相手を確認する。
名前を見た瞬間、私の気持ちは右肩上がりで急上昇し始めた。さっきまでの、悲しみは一気に吹っ飛んで明るい気分になる。
この時間の【堤 響平】からのメールは、大体決まっている。
【今日カラオケ行かねぇ?てか、行こう!ストレス発散してぇ】
ほらね。
私は教室の窓側の方で、友達数人とご飯を食べる響平を見る。すると、私の視線に気が付いたのか響平が振り返った。私は返信の代わりに、右手でOKサインを作ると響平も頷きながら、同じサインを作って、またお弁当を食べだした。それを見届けてから、私も自分のに箸を延ばす。
「なになに?また放課後デート!?」
ニヤニヤしながらモコは私を覗き込む。
「デートなんてもんじゃないし…。またカラオケに付き合うの!」
「でぇもさぁ、響平ってチィ以外の女の子と話さないじゃん!!これって明らかにス・キってことじゃ…」
モコが楽しそうに解説をする。確かに、響平はあまり女の子と話さない。私だけ特別なのを嬉しく感じるのも事実。だけど…。
「違うよ。たぶん私のことは女として見てないんだよ!態度が男友達と同じだもん。この見た目だよ?だから、普通に遊びに誘えるんだよ。もし、女の子だと思ってるなら、いつもいつもカラオケに付き合わさないでしょ」
自分で言っておきながら遣る瀬ない気持ちになる。やっぱりこれも、パターン化していると思った。
私は、モコとアリが目を合わせて、切なげに溜め息を付いているのに全く気付かなかった。