人気少年【制約】-12
「沖田さん、ボク……」
すぐに言葉が続かなくなってしまった。
「……決まったことは仕方ない、のにね。私、欲張りだあ……」
麻理子の声は震えている。
欲張り。ボクはその言葉に反応した。
「そんなことないよ沖田さん。欲張りだなんて……!」
ボクは力を込めてそう言った。
誰だって、とても好きな相手とは特別な存在でありたいに決まっている。当然のこと……
「いや、私は欲張りだよ。このまま真緒の特別になれないまま引っ越すだなんて……考えられないもの」
麻理子は涙を手の甲で拭いながらそう言った。声が震えている。
「真緒。これで最後の最後だから、許してくれるよね?好き同士なら……いいよね?」
「え……?」
麻理子は鼻を啜りながらそう言った。
ボクは少し違和感を覚える。なんだか、話の流れが、変。
「真緒……ゴメン。私……」
……うあ!
突如、麻理子の手がボクを抱き寄せた。
そのまま、麻理子はボクの背中に手を巻き付ける。麻理子に、抱き締められた。
「ちょ、沖田さん……!?」
突然のことに、少しだけ頭がパニックに。
色気を持った麻理子の目がボクを見つめているが、今までと比べると異常に距離が近い……
無意識に、ボクの視線はそのピンク色の潤いを帯びたクチビルに集中してしまう。
胸が熱い。ドキドキする。壊れそうだ。
そう思った矢先のことだ。麻理子の目がうっとりと閉じられたと思うと、麻理子との距離は更に縮まった。
いや、縮まったどころじゃない。触れたんだ。顔と顔。ボクと麻理子の顔。そうクチビル。
クチビル……?え、ってことは今、麻理子とボクは……!
「ぷはっ……」
ボクが、キスだと実感した瞬間のことだ。麻理子の唇が離れた。
そのまま、麻理子はまたボクを見つめた。
胸が熱くて苦しい。そして、なんだろうこの込み上げてくる更に熱いものは。
麻理子の色気づいた目が、ボクを舐める。そのまま、その色気づいた口が滑りだした。
「真緒……今日だけ、いや、あと一時間だけ……あなたを、独り占めさせて」
麻理子が、再びその唇をボクの唇へ押しつけた。
さっきよりも勢いが強い。温かい、いや、熱い。麻理子のクチビル、熱い……!
込み上げてくる熱。鼓動と共に大きくなるこの感情はなに?ただのドキドキじゃない。
麻理子の熱い吸い付けに、意識がとろけそうになる。頭がぼやけてくる。足腰が震える。
麻理子の唾液が、ボクの唇に染み込んできている。生々しいほどにその感触が伝わってくる。
きっと、ボクの唾液は麻理子の唇に染み込んでいる。
ボクの唾液、麻理子の唾液……どちらがどちら?
わからないくらい熱い。もう何が何だか。心地よいとかなんとか、そういうのしか分からない。
もっと……そうボクが思い始めた途端、麻理子はまた唇を離してしまった。
「え………」
口をついてボクはそう言ってしまう。"なんで"とか"もっと"とも多分、言いかけた。
……冷静になり、少し自分が恥ずかしくなる。何、過ぎたこと考えてたのか。
……とボクが思ったのも一瞬のことだった。「わ!」
ふわと重力が消えたと思うと、ボクは近くのソファに突っ伏していた。麻理子が、ボクを押し倒したのだ。
麻理子の両腕が、両足が、ボクの体の両脇を固める。
「お、沖田さん……!」
「真緒……」
ボクのすぐ目の前に麻理子がいる。ボクを見下ろす麻理子の表情は、今まで一度も見たことのないとても性的な表情だった。
垂れる前髪。とろりと濡れている目。唾液に湿る赤い唇。目や鼻の赤みを隠してしまうほどに紅潮した頬。
胸が、早鐘を打つように振動している。さらに込み上げてくる期待と色欲が、股間に集中していく。