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月灯り
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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ホテルにて-1

 彼は都内のシティホテルのラウンジで私たちを待っていた。グレーのスーツと聞いたが、ラウンジには似たようなスーツの似たような年齢の男はいくらでもいた。私と妻が戸惑っていると、中肉中背の上品な紳士が小走りに近づいて来て、私に名前を確認した。醜い中年のスケベ男とマゾ同士として交尾をさせられてしまうという妻の幻想が私の隣で崩れて行くのを私は感じていた。ただし、私のほうは、何となく、そうなることを予感していた。
 妻は、少しばかり文章にうるさいのだ。その妻がメールをやり取りしてしまい、そして、この男ならプレイをしても安心だろうと感じたからには、少なくとも下卑た醜い中年であるはずがない、と、そう私は思っていたからだった。
 彼のグレーのスーツは仕立ても良く、白髪交じりの髪も上品にセットされていた。
「このホテルに部屋をとってあります。こちらでコーヒーでも飲んで、後から来てください。私は先に行ってお風呂の用意をしていますので」
 そう言って、彼はカードキーとメモを私に手渡した。メモには部屋番号が入っていた。それは、ただの算用数字だったのだが、女性的な美しい文字だった。そして、コーヒーを頼んだ私と妻の元から伝票だけを持って、やはり、小走りにレジに行き、清算して、そのまま、行ってしまった。上品な身なりとは、少しばかりアンバランスな、せせこましい男だな、と、私は思った。妻は無言のままだったが、その表情から、あまりにもイメージの違う男に驚かされているのが分かった。それが私には、少し面白かった。
「あの紳士に君はオシッコを飲ませるために来たんだね」
 隣の席には聞こえないように細心の注意を払いながら妻に言ったのだが、それでも、妻は、一瞬、驚いたように周囲を見て、誰にも聞かれたなかったことを確認し、そして、少し顔を赤らめてから「無理かも」と、そう言った。
 私は妻にあてつけるように、出来るかぎり優雅にコーヒーを飲んでいた。妻のほうは、カップを口に運ぶことも出来ないようだった。慌てているのだ。
「ねえ、ここで断ったりすること出来ないよね。それはダメよね。でも、私、どうしたらいいの」
「ここまで来たんだから、覚悟を決めて、新しい扉を開いたらいいでしょう」
 醜い中年のスケベ男に犯されるよりも、妻は、上品な紳士との行為に抵抗があるようなのだ。前回も、イケメンだったが、彼が若いということで妻は逆に緊張しなかったのだろう。しかし、今回は、年齢が近いだけに、それなら、醜い男のほうが気楽に淫乱な自分を晒せたということなのだろう。
 ただ、私としては、それでは、こちらの嫉妬に火がつかないのだ。もしかしたら、妻を盗られてしまうかもしれない、と、そう思うからこそ興奮出来るのだ。そして、その意味で、今回の男は最高だった。何しろ、彼になら妻を盗られても仕方ない、などと、思っていたぐらいなのだから。


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