奔放 4-1
忘れられることを許容することと、ただ忘れること
どちらが残酷なのだろう?
「奔放 4」
無心に、言われたとおりの道を歩いていた。
ここに来た理由も、彼女が消えた理由も、もはやどうでもいいことのような気がしていた。
俺は彼女が好きで、彼女に会いたくてたまらなくて、こんなことをしてしまうほどに。
靴が砂利を踏みつける音だけが規則正しく空気を揺らしていた。
暇があればよく出かける登山を彷彿とさせる。自分に関心を寄せる他者は存在せず、自分自身と向き合うことのできる場所、それが自分にとっての山だった。自然を愛で、自分自身の存在を問い直す。同時に他者との関係の中で社会は構成されており、自分の存在が認められているのだということも再認識する・・・
あたりには人の生活の気配はなく、眼前に広がるのはまるで架空の世界の風景のようだ。
稀に木々に括り付けられている街灯だけが足元を照らし、後は月明かりを頼りに歩き続けていた。草むらの中の未舗装の道路を抜けると、深い森の入り口のような場所に出た。
そこには、一台のバイクが止められていた。郵便配達や新聞配達に使われる、あのバイクだ。長い間雨ざらしになっていたのか、あらゆるところが錆びていた。不審に思いながらバイクに近寄る。薄気味悪い。
「・・・誰?」
背後からの凛とした声。頭で考えるよりも早く体が反応していた。振り返って、あまりの眩しさに目が眩んだ。
「塚田、君・・・?」
月明かりを背負った高橋がそこには立っていた。かすかな風が彼女の髪を揺らしていた。か細い肩が頼りなく、同情のような恋しさが口の中に広がった。
まるで闇に溶け込んでしまいそうなほど細い輪郭に、俺は思わず手を伸ばしそうになる。ぐっと握り締めた左の拳が脈動していた。
風がなめるように俺と彼女の頬、そして木々に絡まり空へ。月が誘うかのように空がきれいな夜だった。
高橋を前にして、言葉が出てこないのは俺が臆病者だからだろうか。どんな言葉をかければ彼女を苦しめないですむのか、そんなことばかり考えていた。
ここまでやってきたのは、高橋に会うためだったと告げることができないでいる。彼女の丸い目は俺の存在を歓迎している風には見てとれなかったせいもあるかもしれない。
しかし、そんな考えは次の瞬間には抹消されることになる。