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奔放
【青春 恋愛小説】

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奔放 4-2

「どうしたの、こんなところで・・・」

彼女は笑ったのだ。子供のような表情で。

その瞬間、目の前が真っ白になる思いがした。ごくりと唾液を嚥下し、唇を真一文字に引き締めて目を上げた。

「どういうつもりだ」

俺は自分の声が荒くなるのを抑える気はなかった。眉間に皺が寄り、視線が鋭くなった。

「どういうつもりって・・・どうしたの、塚田君」

彼女はむしろ自分が傷つけられたかのような、怯えた表情を浮かべて後ずさった。砂利が靴に絡まりつく音は酷く空しい気分にさせた。

”塚田君。”

今まで呼び捨てでしか俺を呼んだことのなかった彼女が。
拒絶の音がする。


高橋はしばらく怯えた目を俺に向けていたが、ふと放心したように俯いてしまって身動きひとつしない。

流れるような茶色い髪だけが時の止まった写真の中で不自然に風に揺れる感覚。

しばらくの沈黙と冷えた外気にくるまれた俺たちは足元の乾いた砂を眺めるばかりだった。


「・・・わからないの」

重い扉をやっと開いたかのようなゆっくりした口調で高橋が地面に向かってつぶやいた。

「何がだ」

「どうしてわたしがここにいるのかが」

苦笑いをするように眉根を寄せて、口角だけ必死に上げようとする痛々しい彼女の姿から目を離すことができずに呆然としてしまう。彼女の唇から紡ぎ出される言葉の意味が理解できずに立ち尽くす。

枝の間から差し込む月明かり光が彼女の頬を青白く照らしている。

「高橋、お前・・・」

「気がついたらここにいた。気がついたら学校に行ってなかった。気がついたらお母さんもお父さんもいなかった。気がついたら、ここに・・・」

語尾に涙が混じっていた。手を伸ばせば触れられる距離にある指先はすくんで動かすこともできない。風の冷たさのせいばかりではないだろう。

独りではないだろう、その言葉が胸を押し上げて彼女に向かう。



張り詰めた静寂を彼女の言葉が裂く。

「・・・圭吾も、いなかった」

一番聞きたくなかった言葉かもしれない。高橋の中には日立がいる。そんなことはわかっていたことなのに。


風が吹いて、木々の葉をさらって空に消えた。
高橋に向けて発せられるはずだった言葉は行き場を失い風に流すように俺は息を吐いた。
拳をそっと握り締めた。


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