パンドラの箱-17
4 マイ
あたしがドラという、悪魔のすきな子に会ったのは、猫さんが療養から戻ってきて、4年がたったころです。
ドラは母親の運転で走っている途中、事故で親を亡くしました。原因はわかりません。
警察では母親の操作ミスとされましたが、周りの人たちはドラが母親の操作のじゃまをして殺したか、呪いでもかけたに違いないと責めました。石を投げる子どももいます。
悪魔崇拝者だと思われていたのです。一般人の中で、悪魔と、悪魔とされた古代の神の違いを知る者は多くありません。
タトゥーだらけで、ゴシックな恰好のドラはいかにも悪魔のようでした。そして、手負いの狼のように周りにかみつくので、悪魔そのもののようだったのです。
そんな人たちから、私たちは彼を救い出しました。
身寄りがないので施設に入りましたが、あたしのファンクラブ会員1番としてストーカーまがいのボディーガードをしてくれるようになりました。
そんなことが1年ほど続いた今、小さな家をシェアしています。18才を過ぎた悪魔っ子を受け入れてくれる施設なんてありません。残された家にひとり帰ることも拒否しました。
「料理もするし、洗濯もするからさ」この申し出は結構魅力的でした。ただ、尻尾のようについてきたがります。
「それはだめ。自分の人生も作りなさい。必要な時は呼ぶから」そう言って突き放します。『かわいい狼は崖から落とせ』というやつです。
その代わり夜はしっかり遊んでやります。ドラはエッチな黒猫と違って、下着姿でいても大丈夫です。
Tシャツとショーツだけの寝る時の格好のまま、タンクトップと紺色のボクサーパンツという格好のドラに魔法を教えてやりました。自分のためにもいい練習になります。
あ、彼は女なのです。
ドラは普段、男のように生活していました。でも、いわゆる女の体に入った男ではありません、女であることを拒否した子でした。
そこまでわかったのは高等魔術の練習で、心をさぐった時のことでした。
あたしの知ってる方法はおでこをくっつけるのですが、体まで密着させた方が、より敏感にわかるようになります。
心とは、脳の中だけにあるわけじゃないのかもしれません。黒猫さんが前にそんなようなことを言っていた気がします。
座ったあたしに、向き合って抱きつくようにドラがまたがって、腰に脚を巻き付けてきます。
「あんたをおそっちゃいそう。パンツ脱いじゃえば?」からかいます。
「姐さん、したいんですか」
「うそだよ。ちょっといたずら」
「いたずらでもいいですよ」立ち上がって、パンツをぬごうとします。
「あン、まいったって」
「冗談です」ドラが笑って座りました。首に腕を巻き付け密着してきます。
「いい匂い」髪の中に頭を突っ込んできます。おかげで髪はくしゃくしゃでした。
「もう」手を回してわきをくすぐってやります。
キャッキャッと笑って、仕返しに同じところを揉んできます。ここは我慢大会です。
くすぐったくて乳首が立ちます。ドラがそこを攻め立てます。
「まって、反則」
指が滑るように脇を這います。
「そっちがその気ならいい」 くすぐるのをやめて、こっちも同じところに手を伸ばします。
腰を引いて逃げようとしますが、のがしません。
≪どうだ、負けないぞ≫
ドラが女の子のような声を出します。
≪おかしい≫
「あんた、好きな人がいるんでしょ」
「そんな、姐さんだけです」縮みあがって言います。
「うそつき。だれ」
「いません。6年前に捨てられてから、ずっと一人です」
「詳しく聞いていい?」
「姐さんでも嫌です。どうかほっといてください」
「そうだよね」誰にでも思い出したくないことはあります。あたしにだってあるのですから。
「ドラ、やめよう。練習中なんだから」変な空気を打ち消すために、真剣な顔に戻ります。
精神を集中させて潜ります。
この『潜る』というのも、他にどう説明していいのか言葉が見つかりません。 ≪何とか、この雰囲気でわかってくれないかな≫ レイが馬鹿にして笑う気がします。
いいえ、レイは馬鹿にはしません。『評価を述べるだけよ。辛辣に見えるのはその結果』これがレイの言う言葉です。
≪今日は体験だけでもさせてあげよう≫ ドラの意識を探っていくと、あわてます。
すごくそうしたいわけではないのに、昔の彼をたどるの方へ流れてしまいます。
≪そうか、これはドラの強い思考の流れなんだ≫ ちょっとしか詮索したいとは思っていませんでした。でもこうなっては、流れに身を任せます。