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パンドラの箱
【ファンタジー 官能小説】

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パンドラの箱-16

その間にわしは村に降りて、パンドーラと共に母親に会った。
「知っての通りパンドーラは変わった子だ。悪魔好きは我々には理解できていることだが、村人にとっては理解不能な大きな脅威だ。 悪魔付きとのうわさももう押さえられないところまで来ている。危険が近い」
「はい、それは感じています。いくつかは止めていますが、それにも限界が来ると思います」
「俺たちにどうしろというの」パンドーラがにらむ。
「ここの人たちはおまえが女だったことを知っている。やがて違和感は恐怖に代わり、誰かの一言で爆発するだろう。田舎の人間にはおまえのような人間を許容する大きさがないのだ」
「ここを出るの」
「そうだ。大きな町に出て、新しく暮らすんだ。町はいろんな人への許容度が大きい。無関心でもある。名前を変えてまぎれるんだ」
「でも」
「ここにいては、襲われる。おまえたちは不幸になる。襲った村人たちもみじめになる。だれにとっても悪いことなんだよ」
「なら、ノラにさよならを言ってくる」
「だめだ。今日。遅くとも明日の朝にはここを出るんだ。おまえだけではない、母さんの命もかかってるんだぞ」
パンドーラはまだ決心がつかないようだった。
「あの男にはすでに決まった女がいる。ノラはそれを選択して瞑想に入った。そうでなくおまえを選んだなら、あいつはここにいる」
「本当?」
「みんな何かを選択せねばならんのだよ」
ふたりの弟子は荷造りを始めた。
わしはアドに電報を打つと、山に戻った。ノラがおとなしく瞑想しているのは、意識を飛ばして様子を見ているのでわかっている。
最後の準備にかかった。
日の昇る前の薄明の中、ノラのいる部屋へ入っていくと。下の階の、祭壇の前に連れて行って寝かせた。ろうそくの揺らめきと、眠りを誘うような心地いい呪文の中、ノラは眠ってしまった。徹夜していたせいだろう。
近づいて心を探ると、猫を探す。そんなに深い所にはいないはずだ。それを見つけると、一番上に固定した。
作業が済んだところで、キリがやってきた。
ノラが目を覚ました。 「どうしたんですか。様子を見に来てくれたんですか」キリに気が付く。
「君の治療が終わったと聞いてね」
「終わったんですか」わしを見た。
「ここでできる事は終わった。肉体的不都合はなくなってきた。ただ、精神的なものをへたにはさわれない。できるだけのことはした」
ノラは黒猫の姿に戻っていた。
「ここまでだ。帰りなさい」
「ありがとうございます」ノラは見まわした。
「待ってもパンドーラは来ない。村を出たからね」
「どうしてですか」
「それを聞いてどうする。君は帰るんだ。そうしたらまた前の生活が始まる。その中へあの子をどう入れ込むつもりなのかね」
「おれはどうすればいいんでしょう」
「パンドーラは君が帰ることを知っていたんだ。君はその猫の姿を見せる前に、このまま家に帰りなさい。それでもう君のことはわからなくなるだろう」
「それが正しいことなんでしょうか」
「正しいことだと? だれにとっての正しさだ。ここにそんなものがあるのかね。レイを選ぼうとパンドーラを選ぼうと、君の体をふたつに引き裂いても、二人を捨てても、どこかに悲しみと苦しみか残るんだよ。 さあ、帰りなさい、その悲しみはパンドーラを新しい環境へ押し出すための原動力とさせてやりなさい。邪魔をするな」
「おれは、おれは」座り込んで、頭をかかえると、そのまま倒れて動かなくなった。
また、どれかの人格に逃げ込もうとしているようだ。


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