飛んで火に入る……-8
スクラップ車の作った角を曲ると、直ぐにシャッターが開けられた工場が見えた。
そこには作業台に乗せられた黒い箱バンが、タイヤを外されたまま放置されていた。
『ここがドアとかバンパーとか外す工場なんだけど……奥で別の作業をしてるみたいだな』
オイル染みに汚れた床には、ボルト一本も落ちていない。
工具は壁一面に掛けられており、かなり整頓されている。
従業員の質が高い証明であり、弘恵は疑いの目を向けた事に微かな罪悪感を覚えながら、招かれるままに向こうの作業工場へと繋がるドアの向こうへと踏み入れた。
「……アレは何です?」
弘恵は狭めな工場内の奥に、小さな金属製の板が散らばっているのに気づいた。
さっきの工場はあんなに整頓されていたのに、コッチはやけに乱雑である。
弘恵は好奇心に任せてスタスタと進み、その金属板に手を伸ばそうとしゃがみ込んだ……。
(………?)
さっき通り抜けた工場の方から、喧しい音が聴こえてきた。
ギーギーと騒ぎ立てる音が錆びついたシャッターの音であると気づいた弘恵は、慌てて入ってきたドアのノブを握って回そうとした。
しかし、いくら力を込めてもドアノブは回らない。
まるで向こう側から誰か≠ェ握り締めているように……。
「や、山田さん!?ちょっと何なんですか、コレはッ」
ギギッ……とシャッターが苦しげに唸ると、今度は鉄パイプをグラインダーで削るような激しい金属音が聴こえてきた。
二重に視界は外界から遮られ、助けを求める叫び声は金属音に掻き消される。
いきなり監禁状態にされて狼狽える弘恵の瞳に、さっき事務室で会った四人の男が映る。
おそらくは事務室から廊下を渡って、この工場内に繋がるもう一つのドアを抜けて来たのだ。
その手にはスタンガンが握られており、コイツらが拉致の実行犯である事と、山田という男が拉致に使う車を盗んでいた窃盗団の一人である事は、疑うまでもない……。
『クククッ!オマエ、古芝風花の仲間かあ。探しに来たってんなら協力するぜえ?』
「ッッッッ!!??」
いっさい報道されていない風花の名前を知っているという事は、弘恵の読みは当たっていた事になる。
それにしても最悪だ。
最悪のタイミングで真犯人との対面となり、しかも工場自体が巨大な罠と化してしまっている。
(襲われる…ッ!)
咄嗟に弘恵は半身に立ち、肘を曲げて拳を握った。
ドアを開ける事に固執しては、ただ襲われるだけなのだから、闘うしかない。
『ありゃ?何なのそのポーズ。もしかして闘うつもりなのお?』