飛んで火に入る……-4
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某テレビ局の報道フロア。
同業者の古芝風花が消えた以外、皆の様子にはさほどの変化は見られない。
ただ一人を除いては……。
「日下部さん、古芝さんを探さないんですか?何故、全く報道してくれないんですか?」
一際大きな声が、フロアに響いていた。
長い黒髪をなびかせ、そばかす≠ェ目立つ端正な顔立ちをした女性が、日下部に噛みつかんばかりに迫っている。
『……ちょっと場所を変えようか』
日下部は彼女を嗜め、フロアの別室へと入った。
あんな大声を出されたなら、他のスタッフの迷惑になる。
第一、みっともないではないか。
『落ち着いて聞いてくれ。井形さん、君は警察官じゃない。公私混同は止めろと言ってるんだ』
太い眉を険しく寄せて、軽く目を剥いて日下部に迫る彼女は井形弘恵といった。
古芝風花と同い年の26才。
スレンダーな身体には青灰色のパンツスーツが良く似合い、特に尻の丸みや長い脚が良く映えてみえる。
「それは聞き飽きました。いいですか?古芝さんは何かを掴んだんです。だから井元さんや浅井さんと同じ日に失踪……」
『それは私も聞き飽きたよ』
池間夏美の事件を追った風花と、夏美の同級生と担任教師の失踪……どう考えても無関係なはずはない。
自らの意思によって消えたのではなく、明らかに悪意のある者に拉致されたのは明白である。
「報道記者にしか出来ない活動があります。警察の目線とは違う私だけの……」
『古芝さんもそう言っていた。その結果が《コレ》なんだよ!警察が聞き込みした後に君が取材するのに何の意味がある?』
弘恵の目には涙が滲んでいた。
風花とは、大学生の時に知り合った。
音楽の趣味が似ていた二人は70年代のブリティッシュロックが好きで、そこから風花はイギリスという国にも興味を持つようになった。
イギリスは防犯カメラの設置には積極的な国だった。
監視の目があれば、犯罪は抑止出来る……その取り組みに感心した風花は、ならば自分の国はどうなんだ……と、目を向けるようになった。
その小さな好奇心が、報道記者・古芝風花を誕生させた。
特にやりたい仕事も見つけられない弘恵は、風花の熱心さに触発されて報道記者≠ニいう職種に興味を持った。
些細な、本当に小さな好奇心が、二人の未来を決定づけたのだった……。