麻衣ちゃんの性の悩み-2
琴美がほっけスティックで俺を指す。おい。
「この人、麻衣ちゃんが来てくれるようになってから仕事熱心になってさあ。絶対麻衣ちゃんにいいとこ見せようと思ってるよ」
麻衣ちゃんが来る前から仕事熱心ではあったと思うけどな。いいとこ見せようとはちょっとは思ってるかもしれないけど。
「ねえ、麻衣ちゃんさあ」
ほっけスティックを箸に持ち替えてハラミ焼きをつまんだ琴美が麻衣ちゃんの顔と俺の顔を交互に見る。
「たぶんこの人、麻衣ちゃんのこと悪く思っていないはずなんだけど、麻衣ちゃん的にはどう?」
「ちょ、なに言ってんだよ」
俺の箸から卵焼きが皿に落ちる。
「はいはい照れない照れない、あんたも早いとこ彼女作らないと……どう麻衣ちゃん?この人、そんなイケメンでもないけどわりと真面目だし支店長の評価もまあまあ高いし、そう悪くないと思うよ」
麻衣ちゃんが困ったような笑顔になる。
「えー。私、彼氏とかぜんぜん考えてないんですけど……」
「なんでなんで。もうすぐ19歳でしょ?彼氏とかいるの普通だよ麻衣ちゃんかわいいし」
「でも……なんていうか、その……」
宮崎マンゴーソーダのグラスをテーブルに置いて、麻衣ちゃんがちょっと背筋を伸ばして居住まいを正す。
「私……ずっと彼氏いたことないから、あの……彼氏、って、どういうふうにつきあったらいいのかよくわからなくって……」
ちょっとうつむきがちに、膝の上で両手をもじもじさせて言う麻衣ちゃんの頬が、アルコールなんか一滴も飲んでいないのに赤く染まっている。俺は自分のことを特に処女厨とは思ってないけれど、もうすっかり大人になっている ―ふだん「こいびと」として小2女児と接していると、大学1年生の麻衣ちゃんですら結構な大人に見える― のに恋愛経験が、もっと言ってしまえば男性経験がない女の子の絵に書いたようなウブな恥ずかしがり方を見ると、なんというか妙なムラムラが沸き起こってきて困る。
「大丈夫だよ19歳なんてぜんぜん遅くないじゃん。彼氏っていっても最初は普通にご飯食べに行ったりどっか出かけた先で喋ったり、女の子の友達と変わんないよすること」
ハラミ焼きをほぼ一人でぺろっ、と食べ尽くした琴美が、その皿を脇によけながら従業員呼び出しボタンを押す。
「この人も真面目だから、最初っから変なことはしてこないと思うし。わかんないけど変態かもしれないから。あ、にごりマスカット酒ください」
琴美お前タイミング悪すぎる、いまの変態うんぬんのとこ、ぜったい店員さんに聞かれてたぞ。それにあんなこともあったから、琴美に変態と思われるのもちょっと無理はないんで焦る。頼むから余計なことは言わんでくれ、酔ったはずみがいちばんこわい。
「ね?だからさ、二人ともとりあえずお友達から」
ちょちょちょ。
「や、待てってば。麻衣ちゃんにだって選ぶ権利はあるんだしさ」
「あんたはどうなのさ」
にごりマスカット酒のグラスを受け取った琴美が俺を見る。
「……へ?」
「麻衣ちゃんのことどう思ってるのよ。年が離れてるからとか言ってたけど、考えてみたらたった7つじゃん。あたしの両親なんか9歳差だよぜんぜん普通」
まあ、18歳差に比べればたった7歳差はぜんぜん普通だな確かに。
「ね、麻衣ちゃんはどう?こいつ」
そう言いながら麻衣ちゃんの顔を覗き込む。麻衣ちゃんの、それほどていねいには手入れされていないちょっと太めの眉が困ったように動く。
「あ、はあ……」
しょうがねえなあもう。泡が抜けた生中をぐっ、と飲んで気合を入れる。
「てか俺、好きな人いるから」