急接近-6
18時半の少し前にビルの入り口に向かい、ソワソワしながら萌香を来るのを待とうとした彰。だがやはりすぐ近くで待ち合わせをしている様子だった女性に声をかけられた。
「あ、井上さん♪」
「は、はい?」
一瞬誰だと思った。自分に話しかけてくる女などいるはずがないと思っているからだ。彰がその女性に目を向けると、それはさっきまでの仕事をしていた容姿とは違う、まさに企画で使った彼氏目線のファッションに身を包んだ萌香だった。
「も、萌香ちゃん!」
いつも垂らしている前髪を横に流しておでこを見せ雰囲気がガラッと変わった萌香に驚く。
「エヘッ…、着ちゃいました♪」
照れながら戯ける萌香に、彰はハートをズキュンズキュン撃たれる。
「あ…」
あまりの輝いた姿に彰は言葉を失った。
「や、やっぱ似合わないですかね…」
「いやいや、可愛過ぎて…声が出なかった…です…」
「ホントですか??ダメじゃないですか??」
「ダメだなんて…イケて過ぎますよ…」
「ホントかなー」
「ホントホント!ヤッバッ!」
「エヘッ」
2人して照れまくる。そして2人とも照れ照れの雰囲気になり言葉に詰まってしまった。すると萌香がその雰囲気から抜け出そうと言葉をかける。
「じ、じゃあ食事、行きましょうか♪」
「はい…」
2人は歩き始めた。歩き始めると、すれ違う男性は勿論女性の視線が萌香に向く事に気付く。
(やっぱ誰が見ても萌香ちゃん、可愛いよな…。これで明日ホームページが公開されたらきっと話題になっちゃうよな…)
ふと目を向けると、すれ違いイケメンが萌香をチラッと見た事に気付いた。
(あんなイケメンにアタックされたら、俺なんか全然敵わないよな…)
それを考えるとますます自信を削られる気分だ。しかもファッショナブルな萌香に対して自分はジーンズにトレーナーだ。一緒に歩くのが恥ずかしくなる。
「ぼ、僕もお洒落してくれば良かったな…。アハハ…」
「えー、いいじゃないですかー。私も普段、ファッションには疎いから…。今はこう頑張っちゃってますが、いつもはホント、井上さんと同じです。トレーナー大好きですから。」
「ホント?」
「はい♪」
今が輝き過ぎていると言いたげな萌香だったが、そのギャップ萌えこそが今回の彰が企画したコンセプトだ。自分が考えた企画に自らやっつけられている彰であった。