「向こう側」第四話-5
「おおっと、色の説明を忘れてたな。あまり重要事項じゃないがな。『ピュアピース』が体内に組み込まれると個人個人によって、様々な色がつくんだ。その瞬間からその『ピース』は当人しか扱うことができなくなるわけよ。ようは印みたいなもんだ。
別に色自体にあまり意味はないんだが…黒い色を帯びている『ブラックピース』だけは特別だ。余りに強力すぎるために使った当人でさえ身を滅ぼしちまうんだ。まぁ『ブラックピース』になるやつなんてまだこの目で見たことないけどな」
ボートンは話し終えると『ピュアピース』を袋の中に戻し、先ほど座っていた椅子に腰を下ろした。
「バッジ、金の引き渡しはいつも通り明日になるからな」
久々に張り切ったせいか、ボートンは体をだらりと椅子にもたれた。
「オッケー。ありがとな、説明してくれて」
用を済ませたバッジは店を出ようとする。
ここは自分もお礼をすべきだと思ったスグルは、頭をペコリと下げた。
「別にどうってことねぇよ。ちょうど暇してたしな」
ボートンはまた眼鏡磨き始めながらそう言った。
カラン コロン カラン
二人が出ていき、店の中は静けさで満たされた。『ピース』が埋め込まれてある時計がチックタックと音を立てながら時を刻む。
「あのガキ…どことなくアイツに似てたな…」
ボートンは静かに呟いた。
「よし、用事が済んだとこで、もう帰るか。スグルがよりたいとことかあればよるけど?」
バッジが目一杯背筋を伸ばしながらスグルに聞く。
「そんなとこあるわけないじゃないですか。この世界にきたばっかなのに」
「ははは、まあわかってて聞いたんだけどな」
無邪気に笑いながらバッジは歩き出した。
大通りから裏路地にさしかかったとき、思い出したようにバッジが口を開いた。
「あ、やっべ。スグル、ちょっとここで待っててくれないか。すぐ戻るから」
「あぁ、はい…わかりました」
バッジはスグルを裏路地のゴミ箱の近くにスグルを座らせた。
「ここに居りゃあたぶん大丈夫だ。じっとしてるんだぞ」
そう言うとバッジはどこかへ走り去っていった。
何もできない子供のように扱われて、スグルはどこか不満を覚えた。
数分ぐらい時間が経っただろうか。バッジはまだ戻ってこない。
大通りのほうから通行人の足音や話し声が聞こえてくるたびに、スグルはびくびくしていた。
すると、
… コツ コツ コツ
足音だ。スグルのほうに段々と近づいてくる。
恐る恐るゴミ箱の影から音の主を確認する。
長いコートを羽織った男だ。顔はよく見えないが、スグルはいやな予感がしてゴミ箱に寄り添うように身を隠した。
(心頭滅却するんだスグル、気配を消すんだ。ゴミ箱みたいにじっとするんだ。あれ?ってことは体臭きつくないとだめか?)
こんな事を自分に言い聞かせていたスグルだが、全くもって心頭滅却などできていなく、心臓がバクバクと脈を打つ。