「向こう側」第四話-3
「違う違う!そんなもんじゃねーよ。もっと大物だ。きっとビックリするぜ?」
そう言うとバッジは意味深ににんまりと笑った。
「ふん、もったいぶらずに教えろ。もう俺も年だ、ちょっとやそっとのことじゃ驚かねぇぞ」
どうせ大したことじゃないだろうと、男は興味なさげな表情で、手にある眼鏡を磨く。
「『下の世界』からのお客様だ」
ガタッ!
その言葉を聞いて、男は姿勢を崩し、椅子から落ちそうになった。
その拍子に手に持っている眼鏡を床に落としてしまった。
「…冗談だろ?」
かがんで、床に落ちた眼鏡を拾いながら男は言う。
「悪いな、俺はそんなくだらない嘘はつかない主義なんだ」
男は椅子から立ち上がり、おぼつかない足取りでスグルのほうに歩み寄ってきた。
そして眼鏡を手に持っていた眼鏡に取り替えて、スグルの顔をまじまじと見た。
「もしかして『救世主』のご子息か?だとしたら…」
「いや、どうやらそういう訳じゃないらしい。どうしてこの世界に来たかもよくわかってないからな」
「そうか…。ん?どうしておまえさんはこんな大事な客をこんなとこに連れてきたんだ?」
その言葉にバッジはついに聞いてきたかといった感じで、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いや…ほら、それはだな…」
そのバッジの様子を見て、男は信じられないといったような顔をした。
「まさかおまえ…まだ『ピース』のことを教えてないわけじゃないだろうな?」
「まぁ…そういうこと」
ベシッ!
男がバッジの頭をはたいた。
「っ!いってぇなあ!なにすんだよ」
「馬鹿やろう!この世界にやって来たお客様に、文化と伝統である『ピース』について何も言ってないとはどういうことだ!?」
二人のやりとりについていけないスグルは、『ピース』って何だろうと思いながら立ち尽くしていた。
「まあまあ、落ち着いてくれよ。俺みたいな素人が説明するより、専門家が説明したほうがいいだろ?」
「ふん、まぁ許してやる。このボートンが直々に説明してやるから、耳の穴かっぽじいてよ〜く聞けよ」
そう言うとボートンは、壁に掛かっていたものをひとつ手にとってスグルに見せた。
「これが『ピース』だ。まあここらへんにあるのは全て加工済みなんだがな。こいつはまだまだ未知な部分がたくさんあってな、不思議な力を秘めているんだ。バッジ、おまえさん今『ピュアピース』持ってるだろ?」
ボートンに言われて、バッジはポケットに入れていた袋を取り出した。