妻を他人に (2) 始まり-4
この男にゆきを抱かせたら――。
ジムに入会しZに出会ってまもなく、そのような妄想が頭を過るようになった。
世間話の中で女性関係を聞いてみたり人妻への興味をさぐったり、彼の人となりや趣味嗜好を慎重に見極めてきた。
Zは人妻とも何人か付き合ったことがあるらしい。ナンパからのワンナイトも含めると両手に余る数の人妻と経験があるそうだ。ジムの客かと聞いたがにやりと笑うのみで教えてくれなかった。
ゆきの写真を見せてみた。
雑談の流れで家族写真などを見せる中で、妻の顔や全身のスタイルが自然と彼の目に入るようにしたわけだ。
彼はゆきの写真に食いついてきた。
「え? これ奥さん? めっちゃ可愛いじゃないすか!」
「同い年なんだ。いや、失礼ながらOさんより一回り下と言われても全然通用しますね!」
「女子アナにこういう人いません?」
「お前に食われちゃうから嫁さんには間違ってもこのジムには通わせられないな」と軽口をたたくと、「いやスタイルもいいしちょっと想像しちゃいました……あ、すみません!」となかなかいい反応を見せた。
そして今日、満を持してZを飲みに誘い出し、ゆきの下着姿を見せている。
もちろんなんの脈絡もなくそんなことをしたわけではない。
彼が先月来、「僕が今度のトライアスロン大会で入賞したらゆきさんとのハメ撮り写真見せてください」とふざけたことをいうので、表向きは一笑に付しつつ、少しもったいぶって「ま、下着姿くらいなら」と冗談半分で言ってみたのだ。その結果プレイボーイは俄然やる気を出し、なんと優勝してしまった。
*
妻のむっちりとした尻にはショーツがぴたりと張り付いている。きちんとくびれた腰とすらりと伸びた太ももには、人妻らしくうっすらと肉がついている。
ゆきの下着姿に大興奮、大絶賛のZ。着衣ではなかなかわからない身体のライン。適度にメリハリがあり適度にだらしない妻の身体を、他の男に文字通り舐め回すように観察されている。
「で、いつゆきさんを抱かせてくれるんです?」
「ばーか。そんなことできるわけないだろ」
期せずして向こうから、際どい話を振ってきたが、ひとまずここは「普通の」対応で流す。
それにしてもこういう話を外連味なくできる彼のキャラクターは羨ましいし、私のような性癖の人間にとっては好都合。「なーんだ。ケチ……」と、さも残念そうにビールを煽るZを見て思った。
この男になら、そして妻の下着姿を見せた今なら、自分の性癖を打ち明けられるのではないか――。
「その代わりってわけじゃないが……ほらこれ。約束してた嫁さんの下着」
私は一歩踏み出した。
実はトライアスロンの大会では「入賞で下着動画、優勝したら生パンティー」という約束だったのだ。もとより冗談半分だったため下着のほうは様子見で隠していた。
「うおーー! まじっすか! 覚えてくれてたんですね!」
受け取った妻のショーツを広げたり裏返したりして大喜びのZ。見慣れた妻の下着も、それが他の男の手にあるだけでなにやら焦燥感にも似た興奮に襲われる。
「ゆきさんの染み付きパンティー! もしかして使用済みっすか!?」
うなずく私。まとめ買いしていた安価な下着ならバレないだろうと、洗濯機の中から拝借してきたものだ。
「ゆきさんのまんこの汚れ……なんだろうこれ……くんくん……。おしっこかな? おりものかな?」
ファストファッションブランドのシンプルな下着でも、「美人妻の使用済みショーツ」「美人妻の股間の汚れが付着したパンティ」というだけでその価値は跳ね上がる。
「あぁ、ゆきさんの股間のつんとした刺激臭たまんないっす。ゆきさんのまんこ、チーズ臭なんですね。いや、納豆臭か……」
ゆきのショーツのクロッチに鼻を押し付け匂いを嗅ぐZ。まるで私の妻が侮辱され陵辱されレイプされているような錯覚に襲われる。
「ふふふ。Oさん、奥さんのパンティ俺にこんなことされて、ちょっと興奮してません?」
「少し変な気分になってるのはたしかだよ」
「やっぱり! 美人な奥さんを持つ旦那さんあるあるですね!」
爽やかに笑うZ。こんな話題でも好青年ぽさを失わないのだから不思議なやつだ。
彼は軽薄そうな見た目に反して仕事ぶりは真面目かつ有能で、私を含め信頼を寄せる客は多い。同僚や後輩トレーナーからも慕われている。女たらしというのも、ゆきを相手に本気にならずあくまで遊びとして性癖に付き合ってもらいたい私としては都合がいい。
「遊びでも女性との行為中は本気で愛するのが真の女たらし」などといつだったか豪語していたが、女たらしのジェントルマンは、まさに妻を貸し出す相手としては理想的といえる。
私は酒の勢いを利用し、意を決して自分の性癖をZに打ち明けた。
以前、元彼とのハメ撮り写真を大量に見つけてしまい興奮したこと、Zに妻の下着姿を見せたのも冗談半分もあるが実は私自身の楽しみでもあること、誰かが妻とセックスすることを想像していつもオナニーをしていることなど。
Zはさして驚かず、そういう性癖ってありますよねとひとしきり共感を示したあと、「ひょっとして俺に寝取ってほしいとか考えてます?」と、またも爽やかに、しかしずばりと核心をついてきた。
そうかもしれないと、私は答えた。