久しぶりの恋人@-2
裸の理央に抱きついたまま、柚木は布団の中ですーすー、と寝息を立てていた。
理央は抱きつかれていても、全く起きない。
(子供が二人できたみたい…)
その光景に微笑みながら、炊飯器から茶碗にご飯をよそい、ダイニングテーブルに朝食を並べていく。
「柚木?ご飯できたよ」
スリッパでパタパタと音を立てて、布団まで歩み寄る。
膝をついて、柚木のサラサラの髪を撫でた。
「ご飯できたよ?」
「う……ん。食べる……」
柚木は起き上がると、加奈子に抱きつく。
「あら、どうしたの。おっきくなってから、こんなの珍しいじゃない」
加奈子は突然の息子の行動に、ぽんぽんと背中を撫でてやる。
「んー。このお布団、いい匂いしたの。お母さんの匂い。だから、ぎゅーってしたくなった。お母さんの匂い、好き」
「えっ……」
佳織の匂いが、理央に染み付いた時のようにーー理央と交わった時の自分の汗が、布団に染み付いてしまったということだろう。
しかもそれを、柚木は母親の匂いだとすぐ気づいたらしい。
途端に恥ずかしくなって、かぁあっと顔が熱くなる。
それと同時にーー息子は自分に甘えることを我慢していたのだろうかと感じて、それを思うと切なくなった。
そんなことを思っていると、理央がのそのそと体を起こす。
「佐藤くん……下着着けてないから気をつけてね……」
加奈子が柚木の背中をさすりつつ、焦り気味に言う。
「あ……中村さん、ごめんなさい……昨日は……」
ふわふわとした髪の毛を掻いて、欠伸をしながら言った。まだ寝ぼけているのだろう。
柚木は加奈子の腕の中でくるり、と振り返ったかと思うと、理央の前に正座して理央を見上げた。
「ねえねえ、さとーくんが寝てたお布団、お母さんの匂いした。何で?」
どくん、と加奈子の心臓が鼓動する。
「んん、何でだと思う?」
理央が気怠そうに柚木に問いかける。理央はーー何と答えるのだろうか。
「もしかして、一緒に寝たの?何で?だって結婚してないとダメなんでしょ?」
「結婚してないんだけど、約束守れないくらい、僕がお母さんのこと好きになっちゃったから一緒に寝ようって言ったの。だから、今度寝る時は三人で同じ部屋で寝よう」
「え!いいの」
「うん。隣の部屋、お布団もう一枚敷けるでしょ。柚木くん、真ん中で寝てくれる?」
加奈子は、泣いてしまいそうなくらい嬉しくなって、口元を押さえてテーブルへと向かう。
どきん、どきん、と胸が高鳴ってしまう。
この歳でーーこんな感情が芽生えるなんて思いもしなかった。
そんなときだった。ダイニングテーブルの上に置いてある、加奈子のスマートフォンが振動する。
着信だった。
佐久間亨と表示されている。