侍女のたしなみ ヒトミ-1
何をしていたのか、ですって。
わたくしは壁にもたれ、薄いショールを頭からかけて、道端にたたずんでおりました。多くの人は仕事を終え家に帰っている時間になります。
肌を透かす黒いシフォンのロングドレスは街灯に照らされ、通りを行く一部の人の目を引きます。
え? 娼婦の様ですって。そう見せたのでございますよ。
みなが、こんな道端でお嬢様が何をしているのかといぶかりながら、通り過ぎていきました。
目の前に箱型の馬車が止まります。都会でも、貴族など優雅な人たちは、今でも馬車に乗っていらっしゃいます。
しばらく止まった後、御者が降りてきました。
「マダム、お力になれることがございましょうか。主人がどこへでもお送りすると申しておりますが?」
「ありがたくお受けします」
御者は手を取って馬車に乗せてくれます。
奥で主人が「で、どちらまで」
「ただしばらく休みたいだけです」薄暗い室内灯の中、ショールを上げます。
主人が息をのむのがわかります。「プリンセスのイエローダイヤ‥ 王女はお見合いなのではなかったのですか」
「わたくしは、あまり申せませんの」
「そうですか、こんなところにおいでだと言うことは、議会派に勝手に決められた縁談を潰すために逃げておられるのですね。わが屋敷に招待させていただいて、よろしいでしょうか、内密に」
「それでは、そちらに迷惑がかかってしまいます」
渋い顔に気が付いたのでしょう、
「そうですな、立場がありますからな。だが、お手伝いできることがあれば何なりと」
「申し訳ございません。恥ずかしい話でございますが、ちょっと急な出立で、持ち合わせがございません、いくらか用立てていただきたいのです」
「もちろんです。議会派どもに一泡吹かせてやれるなら、 いえ、あなたに差し上げる物があるとは、こんなうれしいことはございません」
主人は満足そうに言い、札入れをそのまま渡してきます。「申し訳ありません、あまり手持ちがないのです。こうとわかっておれば、そうだ、いちど屋敷へ‥」
わたくしはその手に口づけして札入れを受け取ると、「十分でございますわ。馬車をひとまわりさせていただけますか」
馬車が動き始めます。
柔らかいサスペンションにゆすられながら、男はわたくしの手をなでます。
「遠慮をなさらないで。ただ喜ばせてくださいませ」男の胸に手をやり、体を寄せ、唇を重ねました。
男は背中のファスナーを探り当てると、肩からドレスを滑り落とします。胸にひっかかった布を、ブラごとはずし、乳房をなで、愛撫して下さいます。
わたくしは足元にひざまずき、ズボンを下ろすと、男のものをくわえて舐めて差し上げます。
どんなですって、もう、あなたがバナナを同じようにしているのを見ましたわよ。
ええ、冗談なのはわかっております。
しばらくすると向かい合ったまま、男のひざの上に座りました。
座っただけ? いえ、受け入れましたわ。
どんな感じって? そうですね、とても深くまで入ってきて、体同士が根元までぴったりとひっつくのです。
腰の動きと馬車の揺れがおなかの中にひびきますし、少し背をそらすだけで新たな場所に先が当たるのです。それはいいものでございますよ。
怒らないでくださいませ。いずれ経験できますから。
本当でございます。結婚が決まりました時には。
‥婿様が何と言われようと、機会を設けてさしあげますから。 はい、約束でございます。
それで終わり? いいえ、それから一度立って後ろを向きました。
男がスカートをたくし上げて、お尻をつかむと広げてキスをされました。長い舌が周りをなめて、穴の奥まで入ってまいります。
高く座る御者のすぐ足もとで、我慢できずに声を漏らしてしまいました。
腰を落として男のものを受け入れると、前の座席に手をついて、腰を何度も落とします。その都度、うめき声を上げて、反対に突き上げてくださいます。
わたくし、何度も御者の座席の板に頭をぶつけましたわ。さぞかし御者はおしりがムズムズしたことでしょうね。
喜んでいませんって。中腰は疲れるのですよ。
そして、そそぎ込んでくださいました。
もちろん、今は綺麗でございますよ。後始末はしましたわ。
でもわたくし、男の方のひざをよごしてしまいましたわ。奥方に見つからなければよいのですが‥
その後ですか、キスをしました。そして、「この恩に見合うだけの女を抱いたと感じてくださるのならよいのですけれど」
「そのために金をお渡ししたのではありません」
「はい、これは馬車で休ませていただいた、お礼でございます」
馬車は元の場所へ戻ってきました。
残念ながら王女の侍女を抱いたという記憶だけは、世間に残しておけません。夢の中へ消しました。
財布がないのは街角の女を抱いたからと思うでしょう。
何を怒っておいでですの。身を売ったと?
あれは休憩の‥
それなら金だけもらっておけ、ですって? 魔女はバランスを重んじます。全てには対価というものが必要なのでございます。それを差し出さないのは盗賊か黒魔術師です。
たしかに、夢や笑いを提供するだけでも対価として成り立ちはします。でもわたくしはそれを良しとはしておりません。それに娼婦と過ごしたとしっかり惑わすためには、その下地を作っておいた方がいいのです。
えっ、ではなぜ、宝石を売らない?
アハハハ‥‥
そうですね。
そうでございますよね。きっとわたくしはそれが好きだからかもしれませんわ。