大義名分-1
男性からのメッセージに書かれた誘い文句はいろいろあるけれど、『セックスしませんか』とストレートに書かれるよりは『一緒に過ごしませんか』とでも、やんわり書かれた方が好みだ。意味するところは変わらないのはわかっているし、お高くとまるつもりはないけれど、『はい、いいですよ』と返事をしやすいのはどちらか…ということではないかしら。
逢って身体を重ねてしまえば(…あ、これも婉曲な表現だけれど)、相手がどんな人かにもよるけれど、無用な遠慮がなくなって、物言いもストレートになったりするときもあるし、逆に、上品で丁寧な物言いで卑猥な内容をあけすけに言い合ったりするときもある。
今まで逢った男性で、一度キリにならない人は、だいたい丁寧語でしゃべっている。いわゆる「ため口」を使う人とはあまり続かない。『奥さん、セックスしてる?』などと言われるよりは、『奥さん、営んでいらっしゃいますか?』などと言われる方が、かえって淫靡な感じがするし、こういう物言いの人の方が、根っからのいやらしさを持っているような気がしている。つまりは、わたしもいやらしい人の方が好き…ということになるのだけれど。
『盛り合いませんか?』と言われたこともある。なんだかメス猫にでもされたようだが、きらいではない。妙に若々しくて。結婚してごく初期の頃に『盛り合っていた』時期も若干はあっただろうか。夫もどんなに遅く帰宅しても必ず求めてきたし、わたしも求められるのを待っていた。わたしの上で果てた夫がそのまま寝息を立ててしまうこともよくあった。
『励んでいますか?』と言われたこともある。盛り合った男女がお互いの性欲をぶつけ合うというよりは、『子作りに励む』のように、なにか共通の目的を持ってセックスしているようなニュアンスだろうか。あるとき夫が、わたしがセックスのたびにエクスタシーを感じているのかを妙に気にして、腰をまわしたり、抜き差しのリズムを変えたり、いろいろ『励んで』いたときがあったことを思い出した。
『営んでいますか?』と言われたこともある。『男女』というよりは『夫婦』でしているもの…というニュアンスだろうか。ある人と逢ったとき、別れ際に「変なことを言うようですが、今日は久しぶりに妻と営んでいる気分になりました」と言われたことがあった。
その人は、数年前に妻を亡くした『男やもめ』なのだという。体型や容貌が奥様に似ていたからかと思ったら、そうではなく、行為中の仕草なり雰囲気なりが似ていたのだという。
わたしに挿入して抜き差しをしながら射精感が高まって一旦抜き去ったときに、ベッドサイドに置かれたコンドームを手渡したさり気ない仕草…。コンドームを装着してから、少し勢いを喪った肉棒を復活させるために、キスをしながら肉棒を愛撫する指使い…。
「奥さんに逢えてよかった。妻を亡くしてから、正直、随分多くの女性に相手をしてもらったんですが、なんというか、今日は特別でした…。ベッドもそのままにしてあるので、今度は是非ウチで…と言いたいところなんですが、あいにく息子夫婦と同居してましてね…」
「奥様、残念でいらっしゃいましたね…」
「いやぁ…まぁ、しょうがないです。わたしも、こんなことさせてもらっていて、いいんだか悪いんだか。あぁ、また連絡させてください」
ベッドもそのままに亡くした妻との営みを追憶していたかのようなこの男性の話を聞いて、夫との性生活に満足できないこと程度を大義名分として、不特定多数の男と出逢っているわたしがなんとも貧しい心根の人間に思えた。
そんな思いが一瞬わたしの表情にでも現れたのだろうか、男性が慌てて謝ってきた。
「いやいや、誠に申し訳ありませんでした。つまらない話を聞かせてしまって」
「いえ…」
「奥さんはウチの(妻)なんかより、ずっとよかった。いい『お○んこ』でした。間違いない。ご主人が羨ましい」
「まあ、そんな…」
「それにウチのは口でするのもダメだったんですけどね。奥さんのお口は最高でしたな」
「…(恥)」
「息子の嫁なんぞは歳こそ若いが、色気もなにもあったもんじゃない。ただただ毎晩盛ってばかりでしてね。やっぱり奥さんくらいの女性と情緒を楽しみながら営みたいものですねえ…」
「まあ、そんなことおっしゃって…」
「いやいや、本当にそうなんですよ。嫁は胸と尻ばっかり大きくて、ついでにアノ声も馬鹿に大きくて、まったく聞くにたえなくてね。それに引き換え、奥さんはよかった。お気遣いも行き届いてすべてがつつましく…」
わたしに気を遣って雰囲気を変えるためなのか、わざと卑猥な言葉を口にし、嫁までこき下ろし始めた男性。多分本心ではないのだろうけど、そんなにお嫁さんを悪く言わないでください…。胸もお尻もつつましいわたしでご満足いただけたのならいいのだけれど…。