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ある熟女の日々
【熟女/人妻 官能小説】

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空っぽに-1

 2週間後、わたしは再びその男と逢うことにした。『逢うことにした』というよりは『待っていた誘いを二つ返事で承諾した』という方が素直だろう…。指定されたのはこの前の旅館。喫茶店での待ち合わせはもう必要ないということだろう。人目を気にしながら旅館の戸を開ける。

 「いらっしゃいませ。もうお見えですよ。お二階の『萩の間』です」

 帳場の奥から女の人の声がかかるが、こちらからは姿は見えない。声を聞かれたくなかったが、黙って上がり込むのも気まずい感じがして返事をする。

 「ありがとうございます…」
 「ごゆっくり」

 定型的な挨拶だとわかっていても(ごゆっくり好きなことをしなさい)と冷やかされているようで気恥ずかしさを覚えながら、前回と同じようにギシギシと鳴る階段を上がっていく。部屋の名前を探すと、この前と同じ部屋に『萩の間』という札が掲げられていた。襖が薄く開けられている。

 「失礼します…」
 「どうぞ。お待ちしていました」

 中から男の声がする。襖を閉じて中に入る。

 「またお逢いできてうれしいです。お変わりありませんでしたか?」

 普通の挨拶のようではあるが『お変わりなかったわけがないですよね?』というふうにも聞こえる。実際、わたしにとって『こんなのはじめて』なことを味わったのだから。喉が嗄れたままでなくてよかった。とは言え、そこはいい年をした男女の会話である。

 「おかげさまで」
 「着替えられますか?」

 男は既に浴衣に着替えている。今日も風呂は家で済ませてきているのだろう。わたしも同じだ。男から浴衣を受け取って衝立の向こうで着替える。

 「今日は暖かいですね。ビールでもいかがですか?」
 「では、ちょっとだけ」

 男が冷蔵庫から瓶ビールを取り出して栓を抜く。差し出されたコップを受け取って注いでもらう。お返しに瓶を受け取って同じように男のコップにビールを注ぐ。

 「では、今日もよろしくお願いします」
 「お願いします…」

 コップをカチリと合わせて口をつける。男はぐいと飲み干して自分でビールを注ぐ。

 「いやぁ、先日は本当に夢のような時間を過ごさせていただいて感謝しています。お別れしたときから、次をお誘いすることばかりを考えてました…」

 こちらのセリフを先取りしたようなことを男が言う。どこまで本心なのかわからないが、懲りずに誘ってくれたということからすれば、いくらか相性は合ったということなのだろう。

 「わたしも、お誘いいただいて、ありがとうございます…」

 素直に謝意を伝えておく。

 「本当ですか。本当ならうれしいです。すっかり無我夢中になってしまって。あんなに気分が高揚したのは本当に久しぶりだったんです」

 またしてもセリフを先取りされてしまった。言うことに困ったから、素直な気持ちを言うことにした。

 「わたしも、なんていうか…いろいろさらけ出してしまって。でも、それでスッキリしたというか」
 「ええ。自己の『解放』ですね。わたしも一緒です」
 「さらけ出してしまって…すごく恥ずかしいんですけど、見届けてもらって、安心するようなところもあって…」
 「そうですよね。いつの間にか身構えてしまっていたのを解き放って」
 「ええ。なので、おかしな話ですけど、ここしばらく夫とも会話が今までになく復活したりしていて」
 「それは結構ですね。では、ご主人とも久しぶりに…?」
 「いえ…そこまでは」

 気が付くとすべてを包み隠さず話してしまっている。別に洗脳されたりしているわけではないはずだけど…。


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