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『そしてその歌は世界を救う』
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『そしてその歌は世界を救う』-1

『退屈だな…』

そう呟くとまだ夜明け前の日差しでさえ苦痛に感じる自分に鞭打ち、手慣れた様子で半開きだったドアを軽く足先で開いて樹は廊下に出た。

最近すぐに喉の乾きを覚えるのは先月の終わりに母が珍しく商店街のくじ引きで当たりを引き
樹の念願だったエアコン生活が始まったからだ。

『今日こそは当てて帰ってきたるで!!』
と意気揚々に母が樹の返事を待たずと玄関のドアを閉め去って行った後、
まぁ… 無理だろ。
と誰もいない玄関口でこぼした事を自分でも覚えていないだろう。
それほどに母が帰宅した後の樹のテンションは上がっていた。
その日の内に業者を呼び自室に設置されたエアコンを見てニヤニヤしながら写メを撮っていた事実を樹本人以外は知る由も無いが。

『エアコン生活も楽じゃねーなぁ』

もごもごと冷蔵庫の中から見つけだした最近母お気に入りのグミを口に含みながら決して好みではない烏龍茶をジョッキに注いだ。
お茶は麦茶なんだよ
中学生の時にもクラスで何回か話題に挙がった自宅の茶の種類の話は樹もいい加減何度も話題に出ることに飽きてしまっていた。

特にこれといって親友とも呼べる友も居なく、別段取り立てて何かがあった訳ではない三年間の中学生活を終えた樹だったがクラスの8割以上が烏龍茶派な事に対してはやっきになり反論していた。

そんな事今更どうでもいいか…と口に詰めるだけ嫌いな烏龍茶をそそぎ入れてから冷蔵庫にペットボトルをしまい 震度1でもこぼれ落ちそうなほど並々と注がれた異様な存在感を放つジョッキを片手に慎重に階段を登った。

『あんたお茶持って上がったらあかんて何回言うたらわかんねな』
聞き飽きた母の言葉を思いだしながらさっきまでチャットに明け暮れていたパソコンに目を向けた。

普通の一般家庭では至極当然な事だが 樹の部屋に冷蔵庫は無い。
毎日夜寝る前に買い換えればいい物をちょうど水を注げば1リットルちょいくらいにしかならないやかんでお茶を沸かし、なんの飲み物が最初に入っていたかもう忘れたラベルの剥がされたペットボトルに器用に注ぎ移し 少し冷ましてから冷蔵庫に入れて就寝するのがうちの母の日課?だ。

朝起きて昨日の夜冷蔵庫に入れたはずの茶が又自分の息子の部屋にあると瞬時に察知し小さく音楽が洩れてきている階段を上がり、飲むと不愉快な喉ごしを与える温度になっていたお茶を樹の部屋からさっさと持ち去り入るだけ氷をグラスに注ぎ 気だるそうに階段降りてきた樹に対して文句を言う母に樹は氷入れるならいーじゃねーかくらいしか思っていなかった。

別になんとなくで最近はペットボトルを持って上がらないだけで樹が母に対して悪く思ったからでは無い はずなんだが最近は面倒でもジョッキに注いでから二階に上がっていた。


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