憤り-1
「あれ、長谷川さんじゃない??」
とある日曜日、ショッピングモールにデートに来ていた修とアンナ。オモチャ売り場で子供と2人でいた梨紗をアンナは見かけた。
「あ、ホントだ。」
「ちょっと挨拶しに行こ♪?」
「ああ。そうだな。」
歩美ではない子供を連れる梨紗にはあまり会いたくなかったが、少し気になり会いに行くことにした。歩み寄る2人に梨紗は気づいていない。
「これ欲しいよー!」
まだ2歳ぐらいだろうか。将来ヤンチャになりそうな雰囲気の男の子だった。オモチャを強請れている様子だ。
「パパに聞いてからね?」
「パパ、いつもいないじゃん。あいつケチだからかってくれないしー」
そんな会話を聞きながら修は思った。
(マセたガキだな。てか憎たらしいガキだ。)
イラッとしてしまった。
「勝手に買ったらまたパパが怒るから。」
「ないしょにしとけばいいじゃん!」
「内緒って…」
困り果てている様子の梨紗。会社にいる時よりも全体的に疲れて見える。
「いいからかってよー!」
「だから…」
なかなか買うと言わない梨紗に子供は発狂する。
「かってよ!」
「ダメ…」
「なんでだよー!ケチ!ケチクソババァ!!」
その言葉を聞いてアンナと修は耳を疑い顔を合わせた。
「もう…なんでそんな事言うの…。もう…もう…」
梨紗は俯き肩を落として震えていた。
「長谷川さん、何か様子がおかしい…」
「だな。」
慌てて梨紗のもとに近づく2人。すると顔を上げた梨紗の顔は、今まで見た事がないような、怒りに満ちた表情をして目に涙を浮かべていた。
「輝樹もアンタも…何で言う事聞いてくれないのよっ!!」
そう言って右手を振り上げた。
「や、ヤバい!ダメだ、長谷川さん!」
子供を叩きそうな梨紗を修がギリギリで止め、子供を庇うように体を入れたアンナ。最悪の事態は免れた。興奮気味の梨紗は体が震えていた。
「あ…」
ゆっくりと視線を向けると修の存在に気付く。
「た、高梨さん…」
「大丈夫?長谷川さん…」
「あ…わ、私…」
興奮して頭の整理がつかない梨紗。だが次第に状況を理解して行く。
「わ、私…もうダメ…」
そう言って修に抱きつき人目も憚らず泣き出してしまった。
「大丈夫、もう大丈夫だから…」
解放する修。アンナはやはりびっくりして泣き出してしまった子供を抱きしめて宥めていた。