前生-3
久々に妻を抱きしめ、遠い昔の愛情に浸っていた修。
「あっ、ご、ごめん…つい…」
慌てて体から離れた。
「い、いえ…」
梨紗も俯き顔を赤くしていた。
「何か…その…」
何て言い訳していいか分からなかった。
「何か…安心しちゃいました…。」
「えっ？」
「私を心配してくれる人がいるって分かって、何か安心しました。」
「そ、そう？」
「はい。それに何か高梨さん、特別な感じがしちゃいます。きっと前世では愛し合ったのかなって。大事な人…お父さん…そんな人に抱きしめられてるような感じがしちゃって。」
特別な感じがすると言われてドキッとした。きっと人生が変わろうと自分の梨紗への愛情も、梨紗の自分に対する愛情も変わらないのかも知れないと思った。もし生まれ変わった時から常に梨紗を気にしていれば、梨紗が結婚する前に出会えたはずだ。梨紗との人生を捨てたのも自分、再び出会いチャンスを掴まなかったのも自分。全て自分のせいだ、そう悔やんだ。
（後悔をやり直す為に選んだ人生で後悔するとか、俺は何してるんだ。後悔のない人生なんかない。それを何であの時気付けなかったんだよ、俺は。）
もう梨紗に全てを話してしまいたくなったが、それは自分がスッキリしたいだけの自分よがりの事だと思った。それに梨紗を巻き込んではいけない、そう思った。
「でも、こんなとこ、金井さんに見られたら変な誤解を生んじゃうんで、もう大丈夫です。高梨さんのおかげでまたしばらく頑張れますから。ありがとうございます♪」
「い、いえ…。俺こそ旦那でもないのに行きすぎた事をしてしまい、ごめんなさい。」
「ううん？嬉しかったです。でも金井さんき迷惑かける訳にはいきません。高梨さんはこれから、いっぱい金井さんを抱きしめてあげて下さいね？」
「ああ、ありがとう。」
そう言った修。
（もう梨紗との関係は終わったんだ…）
そう思い知った。どんなに頑張っても梨紗はもう他人の妻。自分にはアンナと言う新たなパートナーがいる。梨紗とは別々の人生を歩いて行くんだ…、そう思った。
が、次の瞬間、懐かし過ぎる甘く柔らかい感触が唇にあった。
（えっ！？）
目の前にはしっかりと目を見つめている梨紗の顔があった。チュッ、と、ほんの一瞬だったが、それは永遠にも感じる程のものだった。
「あ…！ご、ごめんなさい！わ、私、何しちゃってるの…！ごめんなさい！ホント、ごめんなさい！」
梨紗は慌てて荷物をまとめて立ち去って行った。
「い、今の…どう言う意味だ…？」
唖然とした修はしばらく動けなかった。