同級生との交流-4
そう言ったところで、先日、京子から、母親が間男と不倫しているのを目撃してしまったことを告白されたことを思い出して、余計なことを言ってしまったと後悔したが、京子は素直にうれしそうにしている。
「まあね。うちの母は料理の腕前はあると思うんだ」
「うん。そう思うよ。半熟卵なんて、なんだか火の加減とか難しそうだもんね」
「お弁当にはいつも半熟卵だなぁ。今朝も卵をゆでてたから、今日はアンタと一緒に食べたいな、って思って」
「ありがとう。おいしい卵をいただいて…うちなんかただソーセージを焼いただけで…」
「いや、アンタのお母さんも料理、上手なんじゃないの?」
「そうかなぁ? あんまり思ったことないけど」
「お弁当を見ればわかる。派手さはないけど美味しいって。お母さんもそんな感じの人なんじゃないの?」
確かに特に派手ではないとは思う。美味しいかどうかは…わからない。
「その卵、この前話したどこかの男の人が持ってきてるみたいなんだよね。養鶏場かなんかやってるらしい」 話の方向が急に変わって、半熟卵をまだ呑み込んでいなかったら、喉に詰まらせたかもしれない。
「そ、そうなんだ。なんかいい人なんだね」
とんちんかんな答えをしてしまったと思いながら京子の様子をうかがう。
「まあ、そんな話はどうでもいいんだけどさ」
京子は何を言いたかったのだろう?…。
「半熟卵って、なんか、わたしたちみたいだと思うんだよね」
「えっと…まだ熟してない、ってこと?」
「まあ、そんなとこかな」
「でも、美味しいよね?」
「ふふ。自分で『美味しい』って」
「あ…」
わけもなく…でもないが、恥ずかしさに顔が赤くなる。
「美味しいんだったら食べられたいって思ったことない?」
「うーん…そうねぇ。…っていうか、それって、そういう意味…ってこと?」
奥歯にものが挟まったような対応をするわたし。
「アンタ、してる?」
「『してる』…って?」
この前の「告白」からして「してる」のがオナニーのこととはわかったが…。
「また、とぼけて…」
京子が(アンタはいっつもそうなんだから…)とあきらめているように軽くにらんでくる。
「ごめん。なんていうか、すぐに答えられなくて…ホントごめん」
「いいよ。そういうところが奥ゆかしくて、いいんだと思ってるし。すぐにハネ返したりしないで受け止めてくれるところ」
こちらの至らなさも含めて受け止めてくれているのは京子の方だと思ったから、素直に答えた。
「してるよ…オナニー」
(きゃ、やだ!)とでも言うように京子が顔を赤らめてうつ向くが、表情は明るい。
「『してる』ときってさ…やっぱり想像するよね?…」
「想像?…」
(また、とぼけて…)と言われるのは避けたかったが、『想像していること』と問われると、答えがすぐには浮かばない。自分も京子みたいに母親の情交の現場を目撃していれば別…なのだろうか。 「なにか想像してるようなことってあんまりないんだよね…。なんとなくのイメージっていうか…触っていると気持ちいい…っていうだけで…」
「ふーん、そうなんだ」
お互いの『想像』を交換し合おうと思っていたのかどうかもわからないけれど、京子が期待していたような答には程遠いのだろう…と思う。でも、京子はがっかりしたような貌を見せるでもなく、素直に聞いてくれているようだ。
「あ…、でも、この前聞かせてくれたカセットテープ…あれが耳から離れなくて」
取り繕うように修学旅行の夜のことを持ち出してみる。男女の交わりを想像させるもので興奮はしたけれど『耳から離れなくて』は誇大な表現ではある…。
「ああ、あれね。でも飽きるよね」
確かに、何度も聞いていればいつかは『飽き』てしまうだろうとは思う。京子はなにか刺激を欲しているように思えてきたが、(じゃあ、こうすればいい)みたいな答を持ち合わせている訳でもない。
自分が中学生のときに、上の姉がボーイフレンドと『そういうこと』をしていたということは、今になればわかる。自分もほぼその年代ではあるのだから、『そういうこと』を経験していても、おかしくはないのだろう。さりとて、ボーイフレンドが欲しいとか、はやく『経験』だけでもしたい…というふうには思ってもいなかった。
「京子は早く経験したい…って思ってる?」
「いや、ぜんぜん」
予想外に京子が即答したので、こちらもなぜか安心する。
「っていうか、オナニーしてるかどうか訊いたりしちゃったけど、アンタがとっくにセックスまで経験してるんだったら、なんとも間抜けなことを訊いちゃったなあ、って後悔してたとこ」
「…ま、まさか」
絶句した後、ようやく言葉を絞り出したわたしを妙に慈愛に満ちた表情で見つめる京子…。
「またアンタとキスしたり一緒にオナニーしたりしたい」