元妻-6
「お昼はいつもここで?」
「あ、はい。何か落ち着くんです、太陽にあたりながらこのベンチに座ってると。一日の中でお昼休みだけが家事とか考えないでゆっくり出来る時間なんで。今の季節は特に気持ち良くて。」
「そうなんですか。」
梨紗は確かに公園でのんびりするのが好きだった。いつも公園で娘の歩美と修が遊んでいるところをベンチや芝生に座って柔らかな笑みを浮かべながら見ていた。状況は変われど性格は同じなんだなと思った。
「今日は一緒じゃないんですね、可愛い部下さんと。」
「え?あ、ああ、そうですね。今日は1人で行かせました。溜まった書類片付けなきゃならないし、俺は一日事務所です。」
「そうなんですね。いいですね、あんな美人さんといつも一緒で。」
言葉に棘は全く感じなかった。
「まぁ美人は美人だけど、部下以外の目ではあんまり見れないですよね。」
「あんまりって事は、少しは見てるって事ですね?♪」
「え?い、いやぁ…鋭いツッコミするんスね…」
「ンフッ、冗談ですよ。金井さん、あれだけ慕ってるって事はちゃんと部下として見ている証拠じゃないですか。」
「ですかね。良く分からないけど。」
「ンフッ、でも羨ましいなぁ。仕事をして、遊んで、人生楽しんで…。私も大学卒業したら、就職して、女子会とかして、4、5年社会人楽しんで、いい人見つけて結婚して…とか考えてたんですけどね。でもちょっと人生狂っちゃいました。」
アンナが言っていた通りだ。他の同年代が遊んでいるのに自分は家の事や育児に追われて遊べない事を可哀想だと言っていたが、やはり梨紗もそう感じているようだった。
(俺がその人生を狂わせてしまったのか…?)
元の人生で梨紗の幸せとは何か、深く考えた事はなかった。ただ今のような疲れた表情は見た事はないし、今よりも自分は梨紗を幸せにしてやれてたのかなと思う。そんな梨紗を見て、今更ながら梨紗にとっての幸せとは何だろう、そう思った。
「長谷川さんにとって幸せって、何ですか?」
「え?」
「あ、いきなり変な事聞いてすみません…」
「いえ、いいんです。そうですねぇ…、結婚した今、何をするにも夫と2人で協力して生きていく事ですかね…。夫、家事とか育児とか協力的じゃないから…。疲れちゃって…。大きな幸せとか、昔からあまり望まないんです。ただ普通に幸せならそれでいいかな…」
空を見ながらそう言った梨紗に、梨紗らしいなと思う修であった。