潮干狩り-1
9時渡部はランニングシューズに履き替え何時も行く公園のベンチに座って居ると
琴音が中年の女性に引かれて入って来た女性がベンチに座り琴音の遊ぶ姿を見ていた
琴音が渡部の傍に来た声を掛け
「お早う琴音ちゃん」
「ボールのおじさんこんにちは」琴音が可愛い声で返事を返して来た
「おじさんパパに頼まれたんだ」
「琴音ちゃんを飛行機して潮干狩りに連れてって欲しいって」
「行く?」
「オジサン飛行機してくれるの?」 琴音が嬉しそうに聞く
「そうだよおじさんパパに頼まれたから飛行機して
琴音ちゃん潮干狩りに連れてって欲しいって」
「行く行く」と琴音が体を弾ませながら言う
「お車までだから今日はお腹だね」 渡部は琴音を抱きかかえ
ベンチに座ってた中年の女性が慌てて立ち上がった
ビューン渡部が言いながら走り出すと琴音が手を広げビューンと声を上げる
中年の女性が追いかけて来たが 坂道の途中で自宅へと駆け込んで行った
琴音を助手席に乗せシートベルトを締めると五分程走らせ
ハザードを点灯させ電話を掛け 通話が終わり琴音ちゃん潮干狩り
行こうかと声を琴音に掛けた 通話を聞いていた琴音の顔が
明るく成りうんうんと頷く渡部は海へと車を走らせた
その頃二階堂和則の家ではお手伝いが公園で不審者に目の前で連れ去られたと
息を切らせながら和則に報告していた
和則は直ぐ110番通報をし義理の娘が誘拐された至急取り戻してくれと
焦りながら話し 警察が何時ごろか犯人の車は
どんな状況かと聞かれ和則は答えていたがそれより早く娘を救出しろと怒り出した
警察も一報が入った時点で
地図から検問と現場周辺の防犯カメラの所在
誘拐が考えるられるので捜査1課が二階堂家に行くよう指示を出された
15分後二階堂家から間違えて掛けた娘は無事なので大丈夫です
ご迷惑おかけしましたと電話が入った
二階堂家に警察が到着したのはその電話の直後だった
主人が玄関口で娘は知り合いと出かけたのをお手伝いが見間違え騒いだと謝罪した
玄関に居た二名の警察官は車に戻りながら 誘拐かな?
身代金渡すかもと本部に連絡を入れ二階堂家周辺に警察官を配備し
主人が動きだしたら対応できる手配を行い二階堂家の見える場所に
車を止め家を監視し始めた
渡部の車が海岸に近づき海が見えると 琴音は目を輝かせ
「パパとママと来たこと有るよ」と得意げに話す
小さな商店が開いてるのを見つけ琴音と入って行き
子供用の小さなサンダルとプラスチックのバケツと
小さな熊手とスコップ渡部もビーチサンダルを購入し
少し走らせ海沿いの駐車場へ車を止めた
潮干狩りもまもなく終わろうとしているが砂浜には沢山の家族連れが
思い思いに砂を搔いていた 琴音がバケツと熊手を持ち海岸へと走り出す
渡部も後を追い波打ち際で砂を掘る琴音を見ていた
一生懸命砂を掘りながら琴音は何か話 砂の中のアサリを見つけ
渡部に見せると波の中で砂を落としバケツに入れて渡部に見せ
渡部が褒めると照れた様に笑い砂を掘り始めた
渡部は琴音を優しく見つめていた 砂浜に小さな海の家が開いていた
琴音を連れ海の家の座敷席に座り焼きそばを二人前頼み琴音を見ていた
琴音はバケツの中に有る三個のアサリを時折手に取り
琴音が見つけたのパパとママと来た時もいっぱい取ったんだよと
渡部の顔を見ながら話し
「おじさんパパ見たい」と呟いた
焼きそばが届き琴音が上手に箸を使い食べ始め
食べながらも午後も沢山沢山取るんだと楽しそうに話し
琴音の焼きそばは残り少なくなっていた
琴音がそわそわと行きたそうなそぶりを始め
渡部が貝さん取りに行くと聞くと顔を輝かせ行こう行こうと
バケツを待つ
渡部は海の家でシートを購入しパラソルを借り海岸へ向かった
渡部が砂浜にパラソルを刺しシートを広げ
目の前で無心に砂を掘る琴音を優しい目で見つめていた
琴音が渡部のもとへ走って来てバケツを見せ
自慢そうに見せバケツの中にはアサリと貝殻が入っていた
欠伸をする琴音にジュースを与え膝の上に乗せ
琴音は渡部の膝の上で昼寝を始めた
海岸では潮干狩りを楽しむ人の声が時折聞こえるが波の音がかき消す
潮が浜辺を削る音を聞きながら琴音は静かに昼寝を続けていた
渡部は琴音の寝顔を優しく見続け 寄せる波の音が静かに時を流していた
琴音が目を開けボトルの水を渡すと両手で持ち三分の一程飲んだ
渡部は時刻を確認して 琴音ちゃん帰ろうかと言うと渡部の目を見て
少し間を開け頷いた 渡部はパラソルを抜き海の家に帰し
琴音の手を引き駐車場へ向かう 砂浜をでた時渡部立ち止まり
砂浜を名残り惜しそうに見ていた
振り返った顔には悲しみが滲んでいた
車が動き出すと琴音は熊手を握りしめながら寝息を立て
足元にはアサリの入ったバケツが置いてあった