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鬼の棲む部屋
【ホラー 官能小説】

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鬼娘かわいい-5

「うちの余りものですから、気にしないで。あと、部屋にひとりでいるのも、なんかこわくて」

昨日、ブルドックに別れると勇気を出して史奈は伝えたらしい。

「別れてくれなかったら、奥さんに全部あったことを言いますって。そうしたら慰謝料を請求されるのはお前のほうだって言うから、やれるもんならやってみなさいよ馬鹿野郎って言ってやりました」
「すごいね、こわくなかった?」
「山崎さん、いっぱい褒めて!」
「うおっほん、えー、鈴木史奈どの、不当な暴力に屈せず、勇気を出してブルドックにガツンと別れ話を伝えたことは、たいへん素晴らしい。これを表彰し、よくがんばったで賞を授与しまーす」
「なにそれ、よくがんばったで賞って」

正人と史奈は、ふたりで声を出して思いっきり笑っていた。

(見えないけど、あの子は俺がはしゃいでいるのをどっかで見てるかもな)

「いただきます!」

正人はそう言った時、ふと謎の女の子にもカルボナーラのスパゲッティーを食べるか聞いてみたいと思った。

「鈴木さん、これ半分タッパーに移してもいい?」

まだ最初のひとくちも手をつける前に正人に言われ、史奈が首をかしげた。

(昔話だと、人に話したらいなくなっちゃっちゃったりするんだよな)

正人はちょっと心配になりながら、事故物件に住んだら、自分のことを鬼と言う女の子が日が暮れるとあらわれる件、あと、史奈に頼られてるから会いに行けと怒られた件を話して聞かせた。

「山崎さん、夜までいたら、私もその子に会えるかな?」
「どうだろうな、前に夜、この部屋に来た時は見えなかったんだよね」
「クスリがきまってたから、ランタン型のライトがすごくきれいだったのしか思い出せないけど。でも、クスリも止めたし、山崎さんと一緒だったら、会えそうな気がします」

人に話したら信じてもらえないだろうなと、正人は思っていたので史奈がまじめな顔をして会いたいと言われ、驚いていた。話している時は、気持ち悪がって史奈が逃げて帰るかとさえ思っていた。

「鬼っ子の分はこれでよし。あらためていただきます!」
「はい、私もいただきます!」

正人と食事と洗い物を済ますと、史奈はモニターにスマホから動画をつないで、夕方まて映画鑑賞した。
恋愛映画は避けて、アクション映画かホラー映画のどちらにしようか史奈は迷って、ホラー映画にした。

「ホラー映画好きなの?」
「あれ、もしかして苦手?」
「そんなことはないよ」
「じゃあ、ホラー映画に決定!」

恋愛映画やアクション映画は主人公やヒロインが恋に落ちて、イチャイチャするシーンがある可能性がある。
そうなったときに正人がムラムラしたりするかもと史奈は思った。
ホラー映画ならイチャイチャする登場人物は、次の犠牲者になりがちで露骨なイチャイチャするシーンの色気を打ち消してくれる展開が期待できる。

シャワーを浴びていると視線を感じる気がして怯えるヒロインの気持ちが、正人にはよくわかった。
トイレや浴室でのオナニーを阻止されたことは、史奈には言わなかった。

「ほら、ホラー映画って、ひとりだと見終わったあとこわくって」
「なら、見なきゃいいのに」
「でも、アクション映画とか飽きちゃうし、本当にあった伝記みたいなのって、かわいそうで、あとですごく悲しくなるでしょう?」
「俺、ハチ公物語とか泣いたよ」
「私はヴァイオレット・エヴァーガーデンは何度みても泣きます」

とりあえずB級お色気シーン満載、この分だけゾンビを虐殺するホラー映画というよりアクション映画っぽかった鑑賞した作品については、正人と史奈はふれないように別の映画の話をした。

「鬼っ子、あんぱんちって言いながらアンパンマンをみてたよ」
「ふふっ、かわいいじゃないですか」

洗濯物を取り込みながら、正人が史奈に話しかけていた時だった。

「あんぱんち!」

正人は背中を叩かれた感じがしたのと、謎の女の子の声が聞こえたので振り返ると、史奈もまわりを見渡していた。

(そうそう、声が聞こえて、探してみるけど、見当たらないんだよな)

正人は思わずニヤニヤしていた。自分と同じ反応だと思っておもしろかった。

「鈴木さん、なんかさっき俺、背中を叩かれた」
「私も、女の子の声が聞こえた!」
「これなら、本当に会えるし、おいしいカルボナーラを食べてもらえるかも」

正人と顔を見合せて、史奈はクスクスと笑った。おいしいカルボナーラと正人が言ってくれたのがうれしくて。

「これはおぬしが食べよ」

日が暮れてカーテンを閉じ、部屋の電灯をつけると、ふわりとカーテンがさわっていないのに揺れ、白装束のかわいい女の子があらわれた。
電子レンジで温め、皿に盛りつけて正人がスパゲッティーをテーブルに置いた。すると、じっとスパゲッティーを見つめたあと女の子はそう言った。

「おぬしに食べさせたくて、そこのおなごが心をこめて作ったのに、他の者に差し出すのは、失礼なのではないか」

正人が見た目が子供なのに、すごく威厳があるように感じて、つい敬語になると言った意味が史奈にもわかった。

「そうおっしゃらずに。とてもおいしかったんです。食べてもらいたいと思ったのですが、あれっ、お嫌いですか?」

史奈が謎の女の子にスパゲッティーを食べてもらいたいと思っているのがわかっているので、正人は食い下がってみた。

「史奈ともうしたの。私が食べてもかまわぬか?」
「はい、どうぞお召し上がり下さい!」
「ふむ、これはうまいの。カルボナーラといったか?」
「俺はこんなにおいしく作れませんよ。彼女は料理上手なんです」

スパゲッティーを完食した女の子はにこやかに笑っている。
背中を叩かれた時、けっこうな衝撃だったので、正人は女の子の機嫌が悪くなくて良かったと思った。


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