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鬼の棲む部屋
【ホラー 官能小説】

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鬼娘かわいい-10

正人の手を振り払ったあと、鈴木史奈が笑い出した。

「はははっ、死ね、死ね、みんな死んでしまえっ!」

その声は鈴木史奈の声ではない。
正人が怯えて一歩、あとずさりする。
なぜ膨大な心霊写真を供養してきた住職が鬼っ子様を正人の子だと感じ、鈴木史奈に強い悲しみを感じたのか。
鬼っ子様は殺された嬰児の最後の思念と感情の力を鎮めている。自殺した母親の竹野美穂は、殺された子へあやまりたかった。正人にセックスできないから、ごめんねと思い泣きながら言う史奈の言葉で、我が子に助けてあげられなくてごめんねと伝えていたのである。
鈴木史奈には母親の竹野美穂の怨霊が、鬼っ子様には殺害された嬰児の真凛という子の霊がそれぞれ宿っていたのだ。
愛されたい嬰児の霊と愛したい母親の霊がひっそりと1枚の写真に撮影されていたのである。

「真凛もそなたも、理不尽に命を奪われ捧げられようとしている。祟り殺した者らと同じところへゆくか。それとも再びめぐり合うことを選ぶか、今が選択の時じゃ、選ぶがよいぞ!」

鬼っ子様が言った直後、正人が鈴木史奈を背後から抱きしめた。

「俺の鈴木史奈さんを返して下さい」

呪詛の恨みごとを竹野美穂の声で叫んでいたのも止んだ。
正人が心から子を奪われて殺された母親の怨霊に恋人を返して欲しい、連れていかないで欲しいと懇願していた。
その思念の力は、子を返して欲しいという母親の叶わないとわかっていても想う心に響いた。

「真凛、母親のところへ帰るがよい」

鬼っ子様は正人に抱きしめられられ立ったままじっとしている史奈に近づくと、下腹のあたりをそっと優しく服の上から撫でた。

「一緒にママといこうね」

眠り込み膝から力が抜けた鈴木史奈が、正人に寄りかかっている。
目を閉じて史奈が眠りに落ちる直前、正人はたしかに母親が娘に優しく話しかける言葉を聞いた。

「お史奈を休ませてやるがよい。憑いておったものはもう、どこかにいってしまったよ」

正人は史奈の身体をベッドに仰向けに寝かせると、鬼っ子様は史奈の顔をのぞきこむ。
口元に微笑を浮かべ、おだやかな表情で
すぅすぅと寝息を立てている。

「おぬしら男にはわからぬかもしれんが時に母親と子の愛情は、伴侶への愛情よりも強いことがあるのじゃ。お史奈はおぬしとの子ならば欲しいと望んておる。おぬし、抱きしめておってわかったであろう?」

正人が涙目でうなずいて、鬼っ子様に頭を撫でられた。
史奈が眠り込む直前に囁くように言った言葉と声を聞いて、自分の母親が赤ん坊だった自分をあやしてくれた頃の記憶のかけらを、正人は思い出したのだった。

正人は史奈が愛しかった。そして自分と史奈のあいだに生まれてくるかもしれない子と会ってみたいと思った。

(やれやれじゃ、こやつとお史奈の子に生まれようと思うたが、こやつの子もわれが護らねばならぬようじゃのう)

「ねぇ、私たちのお友達になってよ!」
「うん、なって、なって!」

史奈が産んだ双子の姉妹、生まれ変わった怨霊の母親と嬰児は鬼っ子の手を左右から握って笑った。

【Fin.】


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