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鬼の棲む部屋
【ホラー 官能小説】

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鬼娘かわいい-1

コーポ月山。駅から徒歩20分。近くのスーパーとコンビニまでは徒歩10分。閑静な住宅街の中にある二階建て六部屋のアパート。
一階の3号室は心理的瑕疵物件、契約書にも「告知事項あり」と書いてある。いわゆる事故物件。
事故物件とは「自然死や不慮の事故死以外の死」や「特殊清掃が必要になる死」が発生した物件のこと。特に家賃を値下げする義務はないが、告知義務はあって20%から30%ほど家賃を値下げしないと借り手がつきにくい傾向がある。
山崎正人は事故物件と説明されても、駅からさほど遠くなく、家具つきで風呂とトイレは別で、エアコンの冷暖房完備で下見に行くと、とても人が死んで特殊清掃された部屋には見えなかった。
同じような間取りで駅からの距離も変わらない他の部屋の家賃の半額だった。
この部屋でどんな事件があったのかは、説明はなかった。遺体が発見されるまで1ヶ月かかり特殊清掃されたということしか、部屋の下見についてきた不動産屋の従業員も知らないとのことだった。

この部屋は鬼が棲む部屋だとわかったのは、引っ越してきて3日目の晩のことだった。

「前は会社の寮で、毎日先輩たちが来てたからな。すげえいいわ」

正人は親に引っ越し費用を借金して、会社を辞めて引っ越してきた。母親に住み心地の良さを電話をかけて報告した。

「早く次のお仕事を見つけて、少しずつでもお金返してよ。うちもお父さん退職して楽じゃないんだから」
「うん、わかってるよ。じゃあ、また電話するから。そっちも体に気をつけて」

親に頼みこんでまとまった金額を借りたので、すぐに職探しをする気が正人にはまったくなかった。
昨日、駅前をぶらぶらしていて見つけたパチンコ屋で大勝ちしたせいもある。
まだ購入した冷暖房などは届いていなかったので、今日はラーメン屋でチャーシュー麺大盛を食べてきた。

(これで彼女でもいれば、最高なんだけどなあ)

ごろりと寝そべり、スーパーの二階の百均で買ったクッションに頭をのせているが、部屋はとても静かだ。
辞めた会社の寮はトイレや風呂も共同で食堂に電子レンジとお湯が使えるポット
があった。部屋に小さめの冷蔵庫とテレビがついていた。問題は壁が薄く隣の部屋のテレビの音が聞こえるほどだったことや、寮暮らしなのは歳上の先輩社員ばかりだったことである。

「おい、タバコ何本かくれよ。切らしちまったから」

そんな感じで、あれやこれやたかりに来る始末なのだった。給料が良く、住み込みで家電つきの寮があって働けると聞いて正人は飛びついたのだが、なかなか仕事はきつかった。朝7時半に迎えの車に乗って寮から現場まで行く。夕方まで汗だくになって働いて帰ってくる。家などの解体した現場の瓦礫の片づけやら、不法投棄されたゴミ山の片づけなとをしていた。いわゆる土方仕事だった。
元自衛隊員や建築関係の人が多く、よく酒を飲み、麻雀を誰かの部屋でやっていたり、パチンコ、競馬などの話をよくしていた。正人は酒は弱く、そんなに筋肉がついた体つきでもない。
少し馬鹿にされている感じてからかわれたり、威張って説教されたりもした。我慢するうちに聞き流すようになり、金を借りに来た酔っぱらいの先輩に断ったら殴られる始末だった。社長に言っても取り合ってもらえない。嫌なら早く寮から出ることをすすめられた。

(やってられるか、こんなところ!)

正人は激怒して4ヶ月で会社を辞めることにして、事故物件の部屋に無職で住み始めた。すぐに働く気になれなかった。

正人が実家が出て一人暮らしをしているのは、母親の再婚相手と気が合わないからであった。正人が幼稚園の頃に両親が離婚。高校生になった頃、母親が再婚した。正人はいちおう、父親に言われて大学へ進学したが、別に一流大学ではなく卒業して、営業の仕事についたが、ウォーターサーバー販売の訪問販売で、さらに社長が宗教関係にはまっている人で、正人はウォーターサーバーの押し売りよりも、どうやら宗教への勧誘が仕事らしいと気づいて辞めた。その会社は正人が辞めて半年でつぶれた。
実家で派遣の短期アルバイトだけをしていたら、父親と口論になった。そこで寮つきの職場に飛びついたのだが、寮暮らしが嫌で辞めてしまった。

(明日は職安に行くかな。暇すぎる。エロ動画でも見るか)

「ふむふむ、おぬしはそういうおなごが良いのか?」

急に耳元から子供のような声で話しかけられ、パンツまで下げた状況で正人はびくっとまわりを見渡した。
部屋には正人しかいない。
背筋にぞくぞくぞくっと寒気が走る。とりあえずパンツをずり上げた。

「むむっ、そんなに怯えなくともよいではないか。おぬしのほうが勝手にここに寝泊まりしてるだけで、ここは私の部屋なのじゃぞ」

(うわあ、まだ聞こえる。さすが事故物件だな、すげぇ、幽霊か?)

部屋着のズボンも上げて見渡してみるが誰もいない。携帯電話の画面にはAV女優が男優に愛撫されて、んっ、とか、ああっ、とあえぎ声の演技をしている映像が流れっぱなしになっている。
これが正人が初めて鬼娘の声を聞いた時の状況であった。

(なんか視線を感じる気はするし、へんな話し方する子供の声が聞こえる。なんなんだ、オナニーのじゃまをする幽霊なんて聞いたことないぞ)

正人は少し考えて、首をかしげながらスマートフォンを片手にトイレに行くと、便座に腰を下ろした。

(ここなら視線を感じない。なんか中途半端で落ち着かないから、トイレで一発抜いて)

コンコン。
コンコンコン。
コンコンコンコンコンコン。
軽くトイレの扉をノックする音が少しずつ増えていく。
正人はため息をついて言った。

「はい、入ってます」

返事をした途端、鍵がくるっと回り扉が勢い良く開いた。

トイレの外に白装束でおかっぱ頭の10歳ぐらいの女の子が、腰に両手をあて、仁王立ちで立っていた。


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