レナードの覚醒(後編)-5
5人の女性たちがガルドの手下の男たちに、泣き叫んでも犯され続ける。
しかし、このレナードと精霊たちを融合する儀式を成功させなければ、最悪の場合は人間も、エルフ族も滅亡する。
レナードの部屋でマキシミリアンが儀式を行っている間は、部屋に来てもいけないとセレスティーヌは言われていた。
蒲団の上で、全裸で仰向けに寝そべり、心臓の上にストラウク伯爵の呪符を貼られて、苦悶の表情を浮かべているレナード。その呪符に右手を乗せ、魔力をレナードに憑依した精霊たちに与え続けて、目を閉じたまま両膝をついて泣いているマキシミリアン。
その震える肩と背中に、部屋に入ってきたセレスティーヌが、マキシミリアンの肩を撫で背中に手を当てた。
セレスティーヌは、マキシミリアンが感じているレナードの記憶と精霊たちの記憶を感じる。
マキシミリアンに心の中で呼びかけ、精霊たちにリーナの祈りで精霊に変化した時の気持ちを思い出してと叫ぶ。
夢の中のレナードに近づきリーナが待ってると思い出させるために囁いた。
マキシミリアンは魔力を与え、レナードと精霊たちの体験の記憶を自分が代わって受けている感覚になりつつ、強い心で耐えていた。
「セレスティーヌ」
「私も一緒にいるわ、マキシミリアン」
目を閉じて泣きながらふたりは名前を呼び合っていた。夢の中でマキシミリアンはセレスティーヌを感じ、セレスティーヌは夢の中で凌辱される女性たちやレナードに、マキシミリアンの気配を感じ取った。夢の中に全裸のセレスティーヌが黄金の光に包まれた姿であらわれて、そばに立っていた。マキシミリアンは、セレスティーヌの心の声を聞いて、そのままレナードの心や精霊たちの心に伝えていた。
マキシミリアンが目を開き、背中に抱きついて泣いているセレスティーヌに声をかけたのは、朝の光が空の色を変え始める早朝の頃だった。
「僕ひとりだったら耐えきれなかった。セレスティーヌのおかげで生きることができた。ありがとう」
「マキシミリアン、こういう時こそ、私に愛してると言いなさい」
「愛してるよ、セレスティーヌ」
レナードの姿は、男性ではなく乙女の姿に変化していた。苦悶の表情は消え、おだやかな寝息を立てていた。
「ふふっ、マキシミリアン、レナードはずいぶん可愛い女の子になったわね」
「まあ、いろいろあったから、これでよかったのかもな」
「マキシミリアン、貴方も女の子になってみますか?」
「セレスティーヌ、僕が女の子になったら男の子になるか?」
「私は変わらないわ。マキシミリアンがどっちでも、私の気持ちは変わらない」
「それなら僕は、今のままでいいな」
セレスティーヌとマキシミリアンは抱擁してキスを交わしたあと、レナードの身体の上に毛布をかけてやり部屋から手をつないで出てきた。
「公爵様、儀式は成功しましたか?」
居間でストラウク伯爵が徹夜でふたりを待っていた。
「ストラウク伯爵、貴方も徹夜で呪符に力を送って下さったのですね。ありがとうございました」
「ああ、なるほど、セレスティーヌが夢に入って来れたのは、ストラウク伯爵のお力添えでしたか。おかげさまで、儀式は成功しました」
ストラウク伯爵が手をつないだまま話すふたりに、湯にでも一緒につかってゆっくりお休み下さいと言って、清々しい笑顔で立ち上がると朝食の準備をしているマリカに報告へ行った。
居間で座禅をして、徹夜で念をレナードに貼られた呪符に送り続けているストラウク伯爵をマリカは気にしていた。
しかし、ストラウク伯爵に声をかけてはいけないと言われていたので、少し早めに全員の朝食の準備をしていた。
じきにレナードは空腹で目を覚ます。
同じ朝にランベール王は意識を失ったまま寝所のベッドで眠り続けている。
それを、法務官レギーネが不安げな表情で見つめていた。
「しばらく眠る。3日か7日か、とにかく長く眠るが無理に起こそうとするな」
レギーネにそう言って、左胸を手で押さえ、青ざめたランベール王は身を横たえたのだった。
アーニャの亡霊が変化したウィル・オ・ウィスプやイグニス・ファトゥウス、大陸東方では鬼火と呼ばれた魔物に背後から、ランベール王の肉体に飛び込んだ。心臓を狙って。
レギーネが上から抱きついていた王の異変に気づいた時には、ランベールの肉体は、レナードとの呪いのつながりが切り離されていた。
レナードとランベールがふたりで分けていた凶運は、ランベールの肉体へ襲いかかった。
アーニャの亡霊であったものが、強引に心臓に憑依した。
全身のローマン王の支配と蛇神のしもべの支配からすぐに全身を奪うことはできないが、全身に血液を送る心臓は奪い返した。
じわじわと肉体からランベールに憑依したものを追い出してやるという思いが込められた血を全身へ送るため、心臓が鼓動する。
すでにランベールの心は滅びている。レナードには、心の中に生きてリーナに会いたいという強い想いがあった。ランベールには、強い愛情は無かった。
アーニャはそれでも、愛するランベールの肉体にローマン王が憑依していることや、蛇神のしもべが肉体を作り変えていくことが許せない。
ランベールには強い想いはなかった。
アーニャには思いしかない。ランベールのために、自分の命を捨て火炙りの刑を受け入れた女性である。
ローマン王の生き残りたい意思の力と、アーニャの怒りやランベールへの愛情の力、そして不死を求める教祖ヴァルハザードの記憶と意思の力。
3つの力が、ひとつの肉体を奪い合う見えない戦いが始まった。
しばらくと交わっていた法務官レギーネに言い残して、レナードが陥った虚脱の眠りの状態に見えるが、制御を失った混乱の状態のランベール王の眠りがいつまで続くのか。
法務官レギーネから連絡を受け駆けつけたゴーディエ男爵は、国王が昏睡している状態である事実を隠蔽しなければとレギーネに言った。