レナードの覚醒(後編)-2
マリカは、ストラウク伯爵と同じようにあと5人も同時に愛するのはとても大変なことだと思った。
「マキシミリアンなら、レナードに助言できるかもしれませんけどね」
「えっ、どういうことですか、セレスティーヌ様」
「マキシミリアンは、私以外にもミミック、オーグレス、スライム、アラクネの4人の恋人たちがいます。私をふくめて5人の伴侶がいるような人です。これからも増えるかもしれません」
マリカや精霊たちはセレスティーヌをじっと見つめて困惑していた。
「みなさん、どうかしましたか?」
(セレスティーヌ、みんなでマキシミリアンの取り合いにならないの?)
(誰が一番好きか喧嘩したりしない?)
(マキシミリアン、すごい!)
(5人もいたら、いろいろ大変!)
「それで、私も妬いて喧嘩になったことがあります。リーナは私たちの喧嘩を見ていましたから、会ったら話を聞いてみるのもいいかもしれませんね」
精霊たちの囁いているいろいろ大変の意味が、マキシミリアンがセレスティーヌ以外にも4人の魔物娘たちと交わり、愛し合うことが大変という意味だと、マリカにもわかった。
(スト様だけでも大変と思う時があるのに、公爵様は5人も伴侶がいたら、疲れちゃうんじゃないかしら)
「マリカ、私もマキシミリアンがすごいと思いますよ。でも、レナードはどうなんでしょう。6人の伴侶を満足させられると思いますか?」
ローマン王の憑依している教祖ヴァルハザードと同じ肉体に変化したランベール王は、4人の愛妾だけでなく、餌として他の側室たちとも交わり、生き血を啜ったり、異様な逸物から糸触手で吸血して快感に溺れさせている。6人ぐらいは余裕で相手ができる。
ストラウク伯爵やテスティーノ伯爵、賢者マキシミリアンは念の力や魔力で快感を与えることができるので、もっと多くの女性と交わっても、女性全員を満足させることかできるだろう。
「レナードは6人を相手にするのは難しいかもしれません。それに貴女たちは、レナードではなくリーナのことが好きなのはわかっています。今、エルフ族は男性がおらず、女性しかいません。昔は男性のエルフもいたらしいのですが、女性が女性を愛して伴侶としています。リーナはマキシミリアンによるとエルフ族の王国が守る世界樹の精霊ドライアドとなったようです。もしも、男性ではなく、女性を愛するようになっていたら、レナードはリーナの伴侶にはなれません。そこで貴女たちとレナードの融合が必要となります」
「セレスティーヌ様、それってどういうことですか?」
マリカは困惑して理解できていないようだったが、精霊たちはレナードと融合すると何が起きるのか察したらしい。
子爵リーフェンシュタールは、前世の記憶や女性の心が強く、前世の巫女ローザの姿に変化できる術を、伴侶のヘレーネが教えた。ヘレーネは、男性よりも女性を愛する者なのだった。
シャンリーに贄として殺害されたロンダール伯爵の「僕の可愛い妹たち」のひとりだったステファニーは両性具有の秘術で、身体を変化させられていた。
精霊たちとレナードが融合することで、レナードは男性と女性のどちらの特徴を持つ身体に変化する。
「心が回復した時、レナードの身体は一部に女性の特徴を持った身体か、すっかり女性となっているかもしれず、とても驚くかもしれません」
「セレスティーヌ様、そんな不思議なことが起きるんですか?」
「マリカ、ダンジョンに出現した品物が魔物娘になり、亡霊が精霊になるのですから、何が起きても、おかしくはないと私は思うようになりましたよ」
アルテリスの常識のなかで、レナードが女性化するという考えはまったくなかった。精霊たちは、レナードと融合すればどうなるのかわからずに不安だった。
「貴女たちの願いはレナードと融合してリーナの伴侶になるということでよろしければ、全員で意見が一致したら、マキシミリアンと私に教えてください。レナードが新しい身体が嫌だと受け入れなければ、融合できず虚脱したままやがて死んでしまう。レナード、聞こえているかしら。貴方が決めることなのですよ」
セレスティーヌ、マリカ、精霊たちがレナードの顔を見つめた。レナードの目は虚ろで聞こえているかマリカにはわからなかった。だが、セレスティーヌはわずかに残された心に呼びかけるようにレナードに話しかけた。
精霊たちがそれを聞いて、5人で身を寄せあって泣いていた。マリカはその姿を見て胸が痛かった。
森の空き地の修行場では、テスティーノ伯爵が剣の奥義である隙について、アルテリスとマキシミリアンに話していた。
「殺気と殺気がぶつかる時に、裂け目のような場かあらわれる。そこに剣撃を打ち込むとそこに誘われたように移動した相手は斬られる。見ている者からすれば相手の動きや考えを読んだように思うかもしれませんが、隙に相手よりも強く速く剣で突くか斬り込むか。強い殺気で圧倒できない相手との剣の戦いは、この一瞬の隙を狙い合うのです」
「伯爵様、ちょっと殴り合いとは少しちがうんだね」
「ドラゴンの炎の息吹きにある炎の流れの隙間を切り裂くのも、隙に斬り込むのと同じなわけですね」
「実際に可能かはわかりません。炎の熱風と同じ風圧で押し返すのではなく、最小限の力で散らすのですから。炎が吹きつけられるのは、どのくらいの時間ですか?」
「長くて3秒でしょう。炎の熱がとどく前に風の壁を5秒作ればしのげます」
「公爵様、風の壁って何?」
「風では見えないから水で見せようか」
テスティーノ伯爵とアルテリスから少し離れて、マキシミリアンが腕を振り上げると、間に10秒ほど水が逆巻く壁ができた。10秒後、地面に落ちて水溜まりができた。
「この水、雨じゃないのにとこから」
「僕たちの吸ってる空気の中だよ。アルテリスと僕の間には、見えないけれど空気の壁があるんだ」
「それはわかるかも」