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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(後編)-3

ザイフェルトは念の力で祓魔師になる才能があると、テスティーノ伯爵は兄弟子のストラウク伯爵に語った。

ザイフェルトが、アルテリスを迎え撃つように胸に飛び込み抱きついて押し倒した。勝ちたいという気負いもアルテリスに投げられる警戒心もない、ただ抱きつきたい、という思いしかなかったにちがいない。赤ん坊がただ抱かれたいと手を広げるのと変わらなかった。
無垢なる境地。
アルテリスはザイフェルトに抱きつかれるのを避けられなかった。
テスティーノ伯爵が駆けつけ、抱き合うふたりの様子を見た。アルテリスの豊かな胸のふくらみに顔を押しつけているザイフェルトの表情は陶酔してぼんやりしていた。アルテリスの心の母性が満たされて、ザイフェルトの無心とつながりができた。そのためザイフェルトの心は、母親に抱かれて安心しきった赤ん坊の悦びに満たされてしまった。

「念の力を使い、最も女性に快感を与えるのはこの無心の境地。アルテリスとザイフェルト、ふたりで満たされきっている姿は美しさすら感じました」
「それはすごいものを見たな、テスティーノ。そんなすごいものを見られるのなら、私もザイフェルトの修行に立ち会っておけば良かった」
「アルテリスのほうが先に陶酔が落ち着いて、ザイフェルトの頭を小突いて強引に陶酔を終わらせると、私に抱きつき甘えてきました。ザイフェルトは疲れきって立てなくなってました。ですが、その程度の疲労で済んでいるのも驚きです」
「絶頂や射精感よりも心を奪う陶酔。これを初めての念の発動で使えた者が、またひとりあらわれたわけだ。我らが10年以上の鍛練を必要とした境地に、いきなり到達するか」

無垢なる境地から放たれる念は、放たれた相手に慈愛の情を呼び覚ます。
怨念の根底にある恐怖が消える慈愛の情によって満たされることで、怨念の塊となった怨霊すら陶酔と安堵により浄化される。敵意の根底にあるのも相手に対する恐怖である。もしも、恐怖を感じず相手に愛情を抱いてしまえば戦意は喪失する。殺意は相手の愛しさのあまり相手を殺せずに、殺意が強すぎれば自ら命を絶つ。相手よりも強大であると感じさせ恐怖により戦意の喪失させるのとは真逆である。肉欲が相手から快感を貪るように求める感情だが、底無しの愛情である慈愛を相手に与えたい感情に変わることで、快感を貪る荒々しさが失われる。
無垢なる境地の念を発することは、相手の心に絶大なる変化をもたらす。
無垢なる境地の者が対峙するとき思考は停止し、自分と他人の心の認識も失われるだけでなく、あらゆる感覚に心が剥き出しにさらされる。そのままの状況が続けば心が壊れてしまう。耐え切れず無垢なる境地を手放した者は心が壊れることからはまぬがれるが、相手の心が壊れる前に無垢なる境地を手放せば、相手への慈愛の情に次はお互いに心が満たされた陶酔した状況となる。つまり勝敗はつかずに互いに戦意喪失してしまう。
武術とは、必要最低限の力で相手の心から戦意を喪失させる技術であり、無垢なる境地に達した者が対峙すれば、お互いに心が壊れるか陶酔して戦意を喪失するため、武術の本意そのものが成り立たなくなる。
これが念の力を用いた武術と退魔の法術の極意である。淫らな交わりの絶頂や射精の瞬間のあらゆる思考から離れ、慈愛の感情を強く抱くか、無垢なる心となる一瞬と、その直後の甘美な陶酔は極意そのものともいえる。
お互いに殺意を抱き、命を奪うか奪われるかという恐怖と緊張感を心から手放した無垢なる境地に達して放たれる念の力を受けた相手は、致命的な隙を自ら意識せずに敵にさらし討たれようとする。自ら命を絶つのと同じである。
命の奪い合いのやりとりの果てに、極意である無垢なる境地へ達することができてなお、念の力を使えなくとも感応力が研ぎ澄まされる。相手の気配、考えと動きを感じ取れるため避けることも、隙を突くこともたやすい。
ストラウク伯爵とテスティーノ伯爵の師匠、元ターレン王国武術師範アノスリードは、無垢なる境地に達し、人体の構造や間接から必要最低限の力で敵の重心を保つ力を利用して隙を突き、体勢を崩すさせ敵を押さえ込むことで、戦意を喪失させる格闘術を考案した。剣や槍を用いた人の命を奪う武術の果てに、アノスリードによる素手で相手を押さえ込む格闘術は、相手を殺めない慈しみから考案されたものである。
ザイフェルトは、念の力には覚醒せず、感応力を活用した人を殺めないアノスリードの格闘術を身につけ極めれば、慈しみの心を人に教え広めるのだろうと、ストラウク伯爵はザイフェルトの過去の子爵メルケルを殺めた苦悩や後悔、伴侶のフリーデに対する優しさから慈愛の武人の道を歩むと考えていた。
アノスリードの格闘術と慈しみの心を、テスティーノ伯爵とアルテリスから感じてザイフェルトには運命を拓いてほしいと、ストラウク伯爵は望んだ。
ストラウク伯爵とテスティーノ伯爵は、念の力を活用した祓魔師として生きる道を選び、また弟子のカルヴィーノには念の力の才能があり祓魔師として後継者にしたいと考えていた。慈しみ深い師匠アノスリードが選んだ武人の道の後継者はいなかった。ザイフェルトならば、慈しみの心を抱く武人の道の後継者となれるのではないかと期待していた。
念の力をいきなり無垢なる境地で発して覚醒したのは、カルヴィーノに次いでザイフェルトが2人目であった。

(祓魔師として時には敵の命を奪う非情な命がけの道と、師匠アノスリードの慈しみの武術を受け継ぐ武人の道。ザイフェルトはどちらを選ぶ?)

ザイフェルトが念の力に覚醒せず、感応力を修行と伴侶のフリーデとの心のつながりから覚醒すれば、祟りの影響を夫婦で乗り越えていくことができるとストラウク伯爵とテスティーノ伯爵は信じて行動していた。
ザイフェルトが祓魔師の道を選べば、伴侶のフリーデは巫女になり、ザイフェルトを力で護り、時には命を失う覚悟が必要な道を、彼女は歩むことになる。

「ザイフェルトには念の力が?」


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