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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(中編)-2

「兄者、ザイフェルトが急所は狙わないというのも気に入ったようで、アルテリスもザイフェルトの急所を狙わない。だから、見ているほうとしては、逆に緊張する」
「指の1本でも折る気であれ、投げられないというわけでもなかろう。急所を狙うことを覚えるのは捨て身の覚悟になるためで、覚悟ができていれば、相手と急所を狙い合う必要はないではないか」

ストラウク伯爵はザイフェルトにどうして急所を狙わないのかとは問わず、急所を狙うことで相手からも急所を狙われる緊張が、捨て身の全力を引き出すためのものだと教えた。

(ああ、それてテスティーノ伯爵とアルテリスは大怪我するような急所を、容赦なしで狙っていたのか)

指でえぐられた目は失明する。
みぞおちを強打されたら、息が止まる。
急所でも取り返しのつかない急所と、骨が砕かれたり腱が切れたりしなければ、しばらく苦痛などで身動きできなくなったり、動きが鈍る急所がある。
テスティーノ伯爵とアルテリスはそのどちらも狙い合う。
しかし、急所を狙い合わないほうが逆に緊張するとはどういうことなのか。

「避けられず急所を奪われる隙ができたところで勝負は終わる。急所を狙わないということはどちらか投げられるか、転倒するまで勝負は終わらない」

ストラウク伯爵は、なぜテスティーノ伯爵が急所を狙い合わないほうが緊張するのか説明した。
後頭部は骨が薄く、また背中側の首と頭の境目は脆い。首の骨が損傷すると、骨の中身まで痛めてしまえば体が一生動かせなくなることもある。背骨も同じ。

「投げ技は相手を頭から落としたり、無理に投げられた時に頭をかばうために首を曲げすぎて打ちつけると危険だ」

しかし、テスティーノ伯爵とアルテリスは急所を狙い打ち合い蹴り合い、さらに相手を投げる。

「急所を狙えるということは、急所ではない部分も狙えるということ。急所に限定されていれば、避け防ぐ部位も限定される」
「避け防ぐ方法が、次の動きに使われていることはわかりました」
「攻守一体の動きという。攻めと守りを同時に行っているのだ。言葉で言うのはたやすいが、実際にやってみると、これが難しい」

テスティーノ伯爵はザイフェルトにそう言って、また酒を呑んだ。

「ふふふ、ザイフェルト、私たちの師匠はお主と同じように急所を狙うことをせず、相手を投げるか転倒させて、相手を起き上がれないように押さえ込むようにしていたよ。相手の手首、肘、肩の関節をうまく使ってな」

ストラウク伯爵が言うと、テスティーノ伯爵もうなずいていた。

「投げられたあと、手首や腕をひねり上げられて無理に動けば関節を痛めるようにして押さえられても、腕一本折れる覚悟で抵抗すれば逃げられる。しかし、押さえ込まれたことで相手の闘う気力を奪えればよい。急所ではない場所を殴り蹴りして、痛みで闘う気力を奪うこともできる。顔面では鼻は脆くて鼻血を出させて、息苦しさや出血させて気力を奪うこともできる」

鼻血のことはザイフェルトもよくわかった。鼻を握った拳でなくても潰すように叩くことができれば、相手が怯むことがある。鼻血は、鼻が折れてなければしばらくすると止まる。気絶して呼吸が止まっていなければ、死ぬわけではない。

「ザイフェルトは急所以外を殴り蹴りされても、鼻血を出したとしても怯むことはなかろう。急所を狙わないというのは地面に押さえ込まれるまでは、捨て身で闘うという覚悟で手合わせしている。確実に仕止めなければならないと相手に伝えられたら、相手を仕止めるか、避けるか選ぶことになる。アルテリスがお主との手合わせで嬉しがっておるのは、仕止めなければ終わらない緊張感がたまらないのであろうよ」

ストラウク伯爵はそう言ってニヤリと笑い、酒のつまみの炙った魚の干物をかじった。

「テスティーノ、素手の手合わせは、ザイフェルトが1度でもお主やアルテリスを投げ転がせば、ひとまず終わりでよいのかな?」
「兄者、アルテリスが思わず念の力を使ってしまうところまで追い込めれば、投げ転がさなくてもよいと思っています」
「ほう、それはザイフェルトが知らずに念の力をアルテリスに使ってしまったらということだな」
「スト様、念の力とはなんですか?」
「ザイフェルト、説明は感じてからのほうが納得できるだろう。だがテスティーノ、師匠と同じ優しいザイフェルトは、殺気を込めるとは思えん。うむ、ザイフェルト、私の真似をして胸の前で両手の手のひらを左右均等の力で押しつけ合うように合わせてみよ」

パンッと軽快な音を立て、ストラウク伯爵は自分の胸の前で素早く手を合わせてみせた。
ザイフェルトは5回ほど同じように繰り返して、胸の前に手を合わせた。

「5回か、なかなか筋がいい」

テスティーノ伯爵が腕を組んで、じっとストラウク伯爵とザイフェルトを見つめてうなずきながら言った。

ザイフェルトは目を閉じて、左右の手にかける力加減を同じに維持している。

「目を閉じて集中しておるな。よし、では少しずつ、左右の手のひらを感じられなくなるまでゆっくりと離してみよ」

ザイフェルトは手のひらのぬくもりや感触が、わずか離した時にはまだ感じている気がして、さらに離してみるとわからなくなったので目を開けた。
指1本の太さの幅ほども離れていない。
ストラウク伯爵は握り拳ひとつ分ほど離したところで手を止めていた。

(あれほど離しても手を感じるのか?)

「アルテリスと手合わせしていて、手首をつかまれる前に、手の感触を感じたことはないか。あるいは蹴る爪先がかすめそうな時に、通り過ぎる風が起きる前に来ると感じたりはしなかったか?」
「伯爵様、たしかにわかることがあります。目でとらえきれない時などは特に感じることがあります」
「私とアルテリスは急所を打ち蹴る時には気配を感じて動く。見て、考えて、予想して動いていたら間に合わない」


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