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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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ザイフェルトの修行と厄祓い(前編)-2

ザイフェルトは、子供の頃の祟りの樹の話を食事を終えて、ふたりの伯爵とマリカとアルテリスに語った。

「ヘレーネの言うように、この土地や北に隣接する私の伯爵領は、移民と先住民が激しく争った歴史がない。どちらも他の伯爵領よりも民の数が少ない土地、ターレン王国の僻地だよ」

テスティーノ伯爵が、真冬になると双子の山から吹き下ろす風で、テスティーノ伯爵領はとても冷え込むと言った。

「そうだな、テスティーノ。祟りは、住む場所で気候が異なるようなものだ」

ふたりの伯爵たちが、不思議な祟りの話を日の光や雨風のような当たり前の事のように疑いもしないので、ザイフェルトとフリーデは顔を見合せた。
きっと話しても信じてもらえないだろうから、ふたりで一生懸命、自分たちの体験を話して、信じてもらうつもりだったからである。

「スト様、リィーレリア……あ、今はヘレーネだっけ、あの性悪女がそういうことは得意なはずなのに、ザイフェルトとフリーデにスト様を頼れって、押しつけられたってことだよね?」
「そうとは限らぬよ。アルテリス、リヒター伯爵領からふたりを逃がす必要があったのかもしれない」

フリーデはブラウエル伯爵領のジャクリーヌ婦人との因縁を語った。

「なるほど、ブラウエル伯爵の異母妹にフリーデはあたるわけだ。兄者、たしかに無関係というわけではない」

パルタの都から来たターレン王国武術師範の小貴族アノスリードは、元パルタの都の執政官だった。
フリーデの父親ケストナー伯爵が、伯爵領を継ぐ前の子爵だった頃にパルタの都でアノスリードの指導を受けていた。
ジャクリーヌ婦人はこの当時は貴族令嬢で、子爵ケストナーに惚れて、若いふたりは交わりの快楽を知ってしまうと、夢中になるのも早かった。童貞同然だったまじめな青年子爵と処女だった貴族令嬢の少女はたがいの体に溺れ、貪るようにふたりの仲は深まった。
王都の宮廷官僚のバルニエ男爵は、アノスリードに娘のジャクリーヌと婚姻させる約束で、パルタの都に衛兵の訓練所を設立させ、初めに出資した見返りとして訓練所の利益の大半を懐へ収めていた。
本来はパルタの都の執政官が設立した訓練所なので、出資分を返済後は、利益はパルタの都で管理して運営費として使われるはずだった。
余談だが、この訓練所の施設はパルタの都に残っていて、モルガン男爵の令嬢ソフィアはこの施設で剣術の腕を磨いた。ザイフェルトはパルタの都に滞在したことがあるので、衛兵の訓練所があることやパルタの衛兵たちはよく訓練されていることを知っていた。
バルニエ男爵は小貴族のアノスリードに娘を嫁がせるよりも子爵ケストナーに嫁がせたほうが利益が見込めると考えた。しかし、訓練所の評判はアノスリードの指導が良いため儲かっていた。手放すのは惜しい。
アノスリード自身は武術を広く後世に伝えられることを喜び、さらに自身の武術を極めたいと望んでいた。利益や地位を望んでいなかった。
子爵ケストナーの父親、つまり、フリーデの祖父にあたるグレゴール伯爵は、現在のブラウエル伯爵と同様にゼルキス王国を兵力による侵略で領土拡大を考えていた人物であり、後継者の子爵ケストナーを兵を率いる将軍として育て上げようと考えていた。
バルニエ男爵はアノスリードを執政官として失脚させるために、グレゴール伯爵に師範役のアノスリードが指導を怠り、子爵ケストナーが愛娘に手を出したので責任を取って欲しいとジャクリーヌとの婚姻を要求した。
グレゴール伯爵の前で子爵ケストナーの腕前を披露する場をバルニエ男爵は用意した。アノスリードが子爵ケストナーに敗れたら、子爵ケストナーを師範役としてアノスリードを引退させる。グレゴール伯爵の前で、子爵ケストナーをアノスリードは勝たせるはずとバルニエ男爵は考えていた。また、ジャクリーヌの婚約者の子爵ケストナーを勝たせて欲しいとバルニエ男爵は事前にアノスリードに伝えた。

「アノスリード、これが兄者と私の師匠で、ケストナー伯爵も兄弟弟子にあたるわけだ。師匠はケストナーを殺してしまわぬように気絶させてしまった。グレゴール伯爵は激怒した。またバルニエ男爵は外交官だったベルマー男爵をパルタの都の新しい執政官となるように手を回したので、アノスリードは失脚し、訓練所の権利もジャクリーヌ婦人の父親バルニエ男爵に奪われて、この伯爵領の双子の山に来て、さらに剣術を極めた。兄者と私はアノスリードを勝手に師匠と決めて弟子入りしたわけだ。ケストナーにも才能はあったと師匠は言っていたよ。そのケストナー伯爵の娘フリーデが、師匠と同じように、ジャクリーヌ婦人との因縁で身を隠すためにこの双子の山に来た。ザイフェルト、君もアルテリスと山で修行してみるか?」
「ヘレーネには私たちの師匠の話はしなかったが、カルヴィーノは知っている。フリーデの因縁に導かれてザイフェルトは来たのかもしれぬよ」
「いいね。伯爵様は強すぎて遊ばれちゃうから、ちょうど良かった。ザイフェルト、あたいと修行しよう!」

ほろ酔いのアルテリスにずいっとザイフェルトは近寄られた。着物の胸元から、はちきれそうな胸のふくらみがのぞいている。ザイフェルトが目のやり場に困り、フリーデの顔を見た。

「ザイフェルト、カルヴィーノ様のお師匠様のおふたりに鍛えていただけるなら良いではありませんか」
「俺は未熟だよ。もっと俺に武術の腕前があれば」

ザイフェルトは、そこで言葉が喉でつまったように出せなかった。

(きっとメルケルを殺さずに、フリーデを連れて伯爵領から逃げられたはずだ)

ザイフェルトは容赦なく人を殺してしまった。そのことでその後、フリーデを苦しめたと後悔していた。

「俺は彼女を守れる強さが欲しいと、ずっと思ってきました」
「ひとつ良いことを教えてあげよう。ザイフェルト、いつだって守られているのは男のほうなのだよ」

フリーデがそっとザイフェルトの手を握った。


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