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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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婚姻儀式祝福魔法とパンケーキ-6

「婚姻というものは、本人たちの気持ちが大切だ。しかし人とのつながりができるという意味で、新郎新婦のものだけではないのだ」

リヒター伯爵はそう言って、ヘレーネと隣にいるリーフェンシュタールを見つめて笑った。

こうして、リヒター伯爵の承認による、4組の新郎新婦を祝福する結婚式が盛大に行われた。

ヘレーネが選んだ「誓いの丘」とリヒター伯爵領の住人たちが結婚式が行われてからは呼ばれ続ける場所は、トレスタの街とペオル村のちょうど中間あたりであるだけではない。
ヘレーネがストラウク伯爵領の双子の山の浄化の力を、さらに広範囲へ拡大するために選んだ土地であった。
新郎新婦に選ばれた人物たちの中でも、
新婦のロッタは、重要なつながりを生じる役目がある。
ロッタの両親は、パルタの都からリヒター伯爵領へ移住してきた小貴族たちなのである。
移住してきた者たちが暴力と殺戮によって暮らしてきた土地を奪った歴史。それが生み出した恐怖からの解放。
過去の歴史は変えることはできない。しかし、その歴史が持つ意味をヘレーネは変える祝福の儀式としての結婚式を行ったのである。
移住してきた者が暴力と殺戮によって服従させるのではなく、伴侶として一緒に生きる運命を選んで訪れた事実をひとつ刻みつけた。
蛇神の神官の呪術を受け継ぐ女伯爵シャンリーが、暴力と殺戮の歴史を加える呪詛の儀式を行ったのと真逆の祝福の儀式を施したといえる。
ロッタは純潔の乙女の花嫁。新郎のサムリも童貞である。まるで儀式のために準備して育てられてきたような新郎新婦なのだった。この新郎新婦が交わることで祝福の儀式が完成する。
サムリとロッタが幌馬車に乗って、ペオル村からトレスタの街に来ると、クルトの店の蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキを夫婦で仲良く食べている姿があった。「誓いの丘」の大樹に愛し合う二人が手をふれて恋愛成就を願うと叶うという噂や、クルトの店のパンケーキを食べると運命の相手と出逢えるという噂がリヒター伯爵領で伝えられていく。浄化作用よりも人が誰かを愛している想いや恋の感情の力は、効果抜群であった。
女伯爵シャンリーやヘレーネは知らない蛇神ラーガの秘密。伴侶である女神を恋焦がれて求め続けている肉欲の神であること。恋煩いする神である蛇神ラーガのもたらす心への影響とも矛盾していなかった。
嫉妬深く暴力や殺戮を好む女神ノクティス、神聖教団が信仰する愛と豊穣の女神ラーナ。
すべての神々は世界に存在する人の心が具現化した存在であり、深いつながりがある。
このヘレーネが仕掛けた祝福の儀式魔法ともいえる結婚式の恩恵を受けた人物がいる。
大陸各地を統治し魔獣を討伐した種族の末裔であるエルフ族の女性で、人間族の男性の花嫁となり、一生の伴侶として生きると誓った。エルフ族と人間族との間に愛の結晶として一人娘を授かったゼルキス王国公爵婦人が、ニアキス丘陵のダンジョンにいる。
新婦ロッタが純潔を新郎サムリに捧げた瞬間に、ゼルキス王国公爵婦人にして、大樹海のエルフ族の王国の王族でもある
セレスティーヌの心に変化が起きた。

嫉妬のあまり保護された魔物娘はまとめて討伐してしまおうという殺伐とした考えと、同じ男性を、種族の壁を越えて慕い愛して、身を捧げた同じ女性たちに対する憐れみもあり、また結婚して娘を産んだあとも片思いをしているような気持ちになっている自分の恋心などもあり、葛藤していたセレスティーヌは、それでもマキシミリアンのことを愛しているという結論だけが、自分の心にあると認めて受け入れることにした。
セレスティーヌは夫婦の寝室に、夫のマキシミリアンに一歩でも足を踏み入れることを禁じて占拠して寝ていた。
起きている間も、マキシミリアンと目が合っても挨拶やキスは交わさず、自分から話しかけたりしなかった。自分の食事を済ませた食器洗い、衣類の洗濯、浴室や浴槽掃除やトイレ掃除まで、マキシミリアンに押しつけるつもりで放棄した。同じ風を肌にふれ、マキシミリアンの視線を感じる同じ部屋にいることも避けて寝室に逃げ込んだ。
およそ2ヶ月間、これほど極端な徹底抗戦の態度を示したことは、セレスティーヌにとって初めての事だった。
マキシミリアンがいたたまれないのか、気まずいのかはわからないが、夫婦の住居の部屋から出て、何をしているのが気になっていた。しかし、自分からはマキシミリアンに話しかけないと決めているので、何をしているのか考えるほど生々しい淫らなことまで思い浮かべてしまって、ベッドで思わず枕に顔を押しつけて泣いてしまったりもした。
マキシミリアンはセレスティーヌの分の食事や着替えを用意してくれたり、一人で掃除をしてくれていた。

「おはよう」
「いってきます」
「ただいま」
「あ……ごめん、なんでもない」
「おやすみ」

マキシミリアンはセレスティーヌに無視され続けていても、話しかけ続けてくれていた。
セレスティーヌが同じ態度や行動をマキシミリアンにされたら、彼を放置して、旅に出てしまいダンジョンには戻らないと思う。つい返事を返してしまいそうになったり、ありがとうと感謝の言葉が口から出そうになって、顔を見て目が合ってしまうと、あわてて目をそらしたり、うつむいたりして、唇を噛んでいたこともある。すると、マキシミリアンが、ため息をついた音が聞こえてくる。

「セレスティーヌさん、あの、気分はどうですか?」

美しい顔立ちや体つきになったリーナがマキシミリアンのいない間に訪れ、セレスティーヌの様子をとても心配してくれていた。

もしも、リーナが部屋に訪れてくれていなければ、もう人と話すための声の出し方を忘れてしまうのではないかと、セレスティーヌは思っていた。

「あまり良くないわ。自分がしていることで、疲れているだけ。リーナちゃん、新しいその体はどうかしら?」
「おかげさまで、どこか痛いとか、気分が悪くなったことはありません」


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