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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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リーフェンシュタールの結婚(前編)-6

リーフェンシュタールが知りたい事は、なぜ自分と同じように、ザイフェルトがバーデルの都で感じてきたことを、実際にその場にいたようにヘレーネが感じ取ることができたのかということである。
どこの出身であることや、身分についてなどは、それに比べればどうでもよいことなのだった。

「ザイフェルト、私の知りたいのはそういうことではない」

すると、ヘレーネが立ち上がり、リーフェンシュタールの前に立った。すっと手をのばして頬を撫でると、じっと目を見つめて言った。

「リヒター伯爵の子爵リーフェンシュタール。そう、貴方も別の名前を持って生きているのね……ローザ?」

ザイフェルトはこの瞬間に何が起きているのか、なぜヘレーネが、リーフェンシュタールの頬を撫で、妖艶な微笑を浮かべているのか理解できない。
アモスの火の神殿の神官リィーレリアであった前世では、幾多の人間を魅了し、恋に堕として破滅させてきた。

ローザ。それはカルヴィーノしか知らないはずの前世での名前である。
リーフェンシュタールは、ヘレーネの瞳から目が離せない。ゾクッと背筋に寒気に似たものが這い上がる。

「貴女は誰だ?」

リーフェンシュタールが震えた声で、ヘレーネにどうにか問いかけた。

「私も別の名前を持っているの。ザイフェルトはそれを知らない」

ヘレーネはそう答えて、ザイフェルトの足元からリーフェンシュタールの足元へ近づいてきたレチェを抱き上げる。
かつてアモスの火の神殿では、女性が愛しあっていたが、リィーレリアに恋焦がれる者が多すぎて、秩序を乱すので彼女は旅立つことになった。その結果、平原の国々では争いが起きた。

「ザイフェルト、彼女について知っていることを話してくれないか」

ザイフェルトはヘレーネの母親アリーダが彼女と同じ黒髪と褐色の肌を持つベルツ伯爵領でもめずらしい美しい女性で、村人たちの命を救って歩いていた不思議な話を聞かせた。
ザイフェルトが子供の頃に木登りをして木の実を採取していた。
落下して負傷し、左腕を骨折、頭部を強打して、血を吐いていた。肋骨も折れ、胸の奥を傷つけているので、これは助からないと村人たちは判断して、ザイフェルトの母親が泣いて、村人たちに見捨てないでと泣いて訴えているとき、通りすがりのアリーダに治療してもらったからザイフェルトは生きている。

「ザイフェルトが樹から落ちて死ぬ運命に陥ったのは、代償として祟られてしまったからです」

ザイフェルトの住んでいた村では、実りの季節になり収穫を終えると大地に酒を撒き、感謝の祈りを捧げるのが古いしきたりとして行われていた。
それを行っていた産婆の老女が、その年の春から夏に変わる季節の変わり目に、食あたりで亡くなっていた。
人は死ぬと、土中へ埋葬された肉体は腐敗し朽ちて土へ還り、子孫たちに作物の豊穣をもたらす。土へ酒を撒くことで、土となって子孫を護っている先祖への感謝を示す儀式があった。
老婆が亡くなったことで、その年の収穫の時期のあとに儀式が行われなかったので、ザイフェルトの先祖は先住民ではなかったので、祟られて殺されかけた。
もしも、ザイフェルトが死んでいれば、先住民の子孫ではない血筋の子供が一人ずつ毎年亡くなる村になっていた。

「私の母は収穫の終わった畑に、産婆がしていたように酒を撒き、さらにザイフェルトが木登りをした大樹の根元にも酒を撒きました。その樹の下が、もともと村人たちが亡くなると埋葬されていた場所だったからです。地脈というものがあり、その樹の下と耕作している畑がつながっていたからです。そして、その樹のある場所と耕作地の中間にある道に、ザイフェルトの髪を一本埋めて、その道を人が歩くことで祈りの儀式の代わりになるようにしました。それで、この時は命を奪われる運命を逃れることができたというわけです」
「ヘレーネ様、だから村では、夜にわざわさ外へ集まってきて焚き火を囲んで、みんなで酒盛りをするのですか?」
「そうですね。酔った者が暗いので酒を注ぎすぎて地面へこぼしてしまえば、酒を撒いたことになるのでしょう」
「先住民の祟り。それは恐ろしい不思議な話だ」
「リーフェンシュタール様、ベルツ伯爵領では祟りが起こり、リヒター伯爵領では祟りが起こらないのは、なぜだと思いますか?」

ストラウク伯爵から聞かされたターレン王国の地脈や水脈、スヤブ湖と双子山の地形の話やバーデルの都に鎮められている祟りなどの話をヘレーネは語った。
祟りを鎮めることで、豊穣や護りがもたらされるようにする大事業が、ターレン王国ではひそかに行われていた。

「ザイフェルト、このターレン王国の歴史は、祟りを鎮めてきた歴史ということらしい。これは、お師匠様に聞かせてみたい話だ」

なぜ、かつてニクラウス伯爵がターレン王国の王として即位することを選択し、リヒター伯爵がローマン王の崩御の直後に、バルテット伯爵やベルツ伯爵に国王となることを薦められても、伯爵全員の同意を得るまでは王位を継ぐ意志表明を強く拒んだのか?

「ザイフェルトの祟られた話を聞いて、ようやく納得できた。先住民たちの祟りが起きた時、誰が一番呪われるのかと言えば、先住民たちに恨まれている血筋を継いでいる者だからだ」

伯爵領を継ぐ者は血縁者であり、子が絶えた時には、その領土を国王直轄領として返還するか、他の伯爵の血縁者を伯爵とすること。
この国法で定められているのは、祟りを受ける存在を残し維持するためであり、国王が祟られてしまった時には、次に祟られる国王を用意しておくためということである。国王とは、祟りを鎮められなくなった時の生贄でもある存在なのだ。
王族が近親婚を繰り返していたわけでなければ、祟りを身に受ける力が弱まっていく。王族が絶えないように、後宮に女性を集めて子を産ませる。王族以外の血統の者が愛妾として寵愛を受け、皇子が産まれたら国王となる。


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