教祖ヴァルハザードの淫夢-5
バルテッド伯爵から奪った3人の妻妾たちは、まだモルガン男爵が後宮へ顔を出している頃は、騙してなぶり者にできるぐらいだった。それが、今では心から絶望しきってしまったのか、生きた人形のように虚ろな目になっている。考えることを放棄して、犯されている時以外は感情がまるでないような従順な態度でいるのを見せることに徹している。
犯されている時は快感を受け入れて、気持ちが良ければ、あえぎ声を上げ、苦痛を与えれば泣き顔を見せる。交わりの前後は自分から話しかけてくることも、こちらから話しかけてもゆっくりとうなずくか、小さな声で「はい」と答えるだけで表情は変わらない。
糸触手でなぶることも、血を奪うこともせずに、裸で添い寝をさせておくのが、一番泣き始めるのが早い。寝室へ呼ばれたことで快感を味わえると期待しているらしいが、唇すら奪わずに、枕や敷布と同じ寝具のような扱いにされるのがつらいようだ。
泣き始めて、涙を舐めてやるとこちらをじっと見つめたあと、微笑を浮かべて命令されるのを待っている。
命令には従う。自慰をせよといえば、自分の手で体を弄り始める。犬の真似をしろといえば這いつくばって、寝台の周りをぐるぐるとまわりながら、吠えろと言われると「わんっ!」と言って、こちらの顔を見ながら舌を出す。手のひらを差し出せば頬ずりをしたり、舐めたりしてくる。木桶を用意して、中に排泄しろと命令すれば、またがって小水をジョボジョボとするし、さらに命じれば大便もしてみせる。死ねと命じて刃物を渡せば、こちらを刺したり切りつけてくるのだろうか。自分で喉や腹を刺すのではないかと、これは試していない。
それぞれ1人ずつ寝室に呼び出すことが多くなった。以前は3人まとめて呼び出して、1人だけと戯れると、他の2人が見つめて心配していたり、目をそらしたりする様子が見られた。今は見つめているのではなく、興味や感心がなくなって水面に何がうつりこんでも波が立たないように、見ているふりで、本当は見えていないのではないかと思えるほど無反応になっている。
それでも、たまに呼んで犯すのは、膣内や腸内に糸触手を刺して血を奪う時に、快感を感じているのをこちらも感じることができるようになったからだ。
糸触手を突き刺して、相手が嘘をついているか、正直に話しているかをヴァルハザードは確認していた。相手の感情を、血を奪うことで覗くことができる。
心を操ることができれば便利だとは思うのだが、察することができるだけなのが残念な気がする。
ヴァルハザードが嘘つきの神官を従えていたのは、人を巧みに誘導して操るためだったとよくわかる。
モルガン男爵は、ガルドにパルタの都でガルドに殺害されてしまった。あの男は夢の中にあらわれる神官ほどではないにせよ、人を誘導する嘘つきの才能に恵まれていたように思える。
モルガン男爵に、後宮へ貴族令嬢を集めさせるつもりだったのだが、代わりになりそうな嘘つきの才能がある者は、今のところ見つかっていない。
バルテッド伯爵から奪ってきた3人ほどは、喰らいついてまで生き血を啜り取ることもできない。射精するときに、本人から見えていない膣内から、ちょっぴり吸い取るぐらいしかできない。
バルテッド伯爵から奪ってきた3人には怪物になったことを漏洩する親族はいないが、他の妻妾には宮廷官僚の親族がいて、秘密を暴露しかねない。
生きた人形のような状態になれば、面会は許可していないが、手紙のやりとりは許可しているので、急に娘からの手紙が途絶えれば、後宮で何が行われているのかを詮索する者も出てくるだろう。
後宮へ送り込んだ娘を使って、国王に対して金銭や品物などをねだらせ、要求してくる馬鹿な貴族もたまにいる。モルガン男爵が殺されたので、宮廷官僚の貴族たちを、自分で飼い慣らしておかなければならなくなった。
パルタの都をガルドが占拠している事案も、今の状況ではガルドにパルタの都を任せるか、誰か宮廷官僚の貴族から執政官として赴任させるか、自分が乗り込んで挑発したあとで反逆者として伯爵たちにガルドを討伐させるか、選択できることが人材不足で少なすぎる。
遠征軍出兵の軍事会議で、ガルドを見た宮廷官僚は、パルタの執政官だったベルマー男爵の後任として赴任して、ガルドを配下として従えなければならないことに難色を示すばかりだ。
山賊まがいの野生の獣に騎士の階級を与えてやって、人間らしく服従して遠征に行ったかと思えば、モルガン男爵を殺して、執政官の都落ちさせたベルマー男爵も殺した上に、知恵がついたのか、沙汰が出るまで仮に治めておくという書状まで宮廷へ上申してきた。
シャンリーもこの件には、バルテッド伯爵を殺した後始末で手が回らないと、フェルベーク伯爵とロンダール伯爵を介在させて連絡してきた。
遠征軍で挑発して、ゼルキス王国の頑固者から、広めに領地とする辺境地域をせしめてやるつもりだった。大使にはシャンリーを女伯爵として派遣することが、後宮でモルガン男爵と立てていた計画だったのに、ガルドのせいで実行できなくなってしまった。
挑発したゼルキス王国から、こちらへ何も音沙汰がないのも気味が悪い。謝罪や賠償を求めてくるかと考えていた。しかし、ゼルキス王国から使者が来たという報告は上がってこない。
ゼルキス王国も人材不足なのだろうか。
後宮の妻妾に爵位を与えて、シャンリーを貴族にしたのは無駄ではないと考えている。妻妾の中に使える人材がいれば、伯爵、子爵、男爵よりも下位で騎士より上の准男爵(バロネット)の爵位を与えて官僚として取り立てることも考えている。ガルドやゼルキス王国の頑固者も、准男爵の若い娘が来れば、簡単に殺すことはない。殺したり危害を加えたとしたら、こちらの交渉は有利になるだけで不利益はない。
バルテッド伯爵から奪ってきた3人が心が壊れてなければそれなりに使えたはずだが、モルガン男爵の権威で3人をバーデルの都の執政官に赴任させ、伯爵領のひとつを国王直轄領にする計画は頓挫した。