聖獣師と獣戦士と村娘-7
「アルテリス、がんばるじゃないか。まだ咥え続けてるなんて」
テスティーノ伯爵は目を細めて笑顔で、アルテリスの赤い髪と狐耳に軽くふれるように撫でた。
「ふはっ……伯爵様、耳はずるい、あううっ、あんっ……ああっ、体が火照って」
アルテリスが咥えていた勃っているものから、アルテリスの全身に念の力で自分の感じている快感をじわじわと流し込んだ。そして、アルテリスは耳をさわられた瞬間に、体の感じやすい部分で次々と快感が連続して弾けた。
「アルテリスのお口は気持ちよかった。どのくらい気持ちよかったのかは、ちゃんと、今、アルテリスに伝わってるはずだよ」
思念や感覚を体の一部から相手の体に伝えるか、武器に伝えるか、そして一体になったような感覚になると、魔力が流れる込んだ状態になる。
アルテリスは愛情からテスティーノ伯爵に咥えて魔力を流し込んだ。テスティーノ伯爵は咥えられながら、快感と愛しさを込めて魔力を流し返した。
「お口で咥えてるのに、イッちゃいそうにされるなんて……でも、伯爵様の気持ちも伝わってきたからなんだろうな、こんなにドキドキしちゃってるよ」
テスティーノ伯爵の手首をつかんで、手を左の乳房、心臓の上にふれさせた。そして、アルテリスはテスティーノ伯爵の左胸に手をあてた。
「ふたりのここが、ひとつになった感じがするよ。伯爵様も、すごくどきどきしてるね」
「そうだね。キスをしないか?」
アルテリスが目を閉じると、テスティーノ伯爵はゆっくりと唇を重ねた。
アルテリスは獣人のもともと鋭い直感力と、あとから目覚めた感応力で交尾しながら、念の力で魔力を使いこなすコツをテスティーノ伯爵と愛しあいながら身につけていった。
木刀を持たせてて念を込めることや、手から木刀を離しても、しばらくその高さで浮かせておくことも、アルテリスに見せたあと、テスティーノ伯爵がアルテリスの背中に軽く手をあてながらやらせてみると、あっさりとアルテリスは成功した。テスティーノ伯爵は背中にふれている手から、思念を伝えた。アルテリスはそれに同調して、自分の魔力を導き、同じことをやってみせたのである。
「伯爵様、あたいにもできた!」
アルテリスが青葉色の瞳を輝かせて、子供のように晴れやかな満面の笑みを浮かべて振り返ると、テスティーノ伯爵は思わず、その天真爛漫な魅力に、アルテリスを愛しく思い、抱きしめてしまうのだった。
交尾で感覚が同調し合ったことをすぐに活用できたのは、アルテリスが素晴らしく直感力の鋭さが冴えている獣戦士である証拠でもあった。
ストラウク伯爵領の村娘マリカとテスティーノ伯爵領に滞在中の獣戦士アルテリスは、それぞれの才能を恋愛によって開花させつつあった。
(私だけの運命の女がいない世界など、今すぐ滅べばいいのに!)
ヘレーネはそう思いながら、旅を続けていた。ストラウク伯爵からの手紙を受け取った時に、パルタの都へ向かう前に、リヒター伯爵領へ向かうとヘレーネはストラウク伯爵に言った。
リヒター伯爵領へは、ストラウク伯爵領から南南西の方角へ向かうことで他の伯爵領を通過せずに到着できる。
「テスティーノ様の御子息のカルヴィーノとは、リヒター伯爵領で、私は会えるでしょう」
「ヘレーネの予知の力で、カルヴィーノに会う必要があると感じたのなら、それが良いだろう。それにバーデルの都で暴動騒ぎがあった影響で、旅人に対する警戒が強めていることも考えられる。その手紙は、女伯爵シャンリーには奪われたくない」
ストラウク伯爵は、ヘレーネの意見を受け入れて同意してくれた。
パルタの都へ女伯爵シャンリーのいるバーデルの都を経由せずに向かうならば、テスティーノ伯爵領とフェルベーク伯爵領を通過しなければならない。
「リヒター伯爵とは、どのような方なのでしょうか?」
「伯爵の中でも一番の穏健派の人物。だから、父上のベルツ伯爵やブラウエル伯爵のように宮廷への進出を考えている人物には何を考えているかわからない人物ということになる。私や兄者のように昔の祓魔師の末裔として動いているわけでもない。才能がある人物を客として迎えるのを好む。学者のモンテサントもリヒター伯爵が客として迎えて、パルタの都にいるというわけだ。たしかにカルヴィーノが、リヒター伯爵のところで世話になっている可能性はあるな」
テスティーノ伯爵はヘレーネに教えた。学者モンテサントは、ターレン王国の歴史や伝承を調べている知識人で、ストラウク伯爵にも会いに来たことがある。その後、リヒター伯爵の論客となったことやパルタの都へ出向していることをテスティーノ伯爵は知っていた。
ヘレーネは、アルテリスに再会する日をとても楽しみにしていた。
しかし再会したアルテリスは、テスティーノ伯爵に恋をしていた。
前世の自分と今の自分とは別の人間だとわかっているつもりだった。アルテリスの声を聞き、話していると、前世のリィーレリアのアルテリスに抱いていた恋慕がこみ上げてくるのを、ヘレーネにはどうにもできなかった。
ストラウク伯爵とテスティーノ伯爵は、ヘレーネを恋愛対象の相手に見ることはなかった。前世のリィーレリアだった頃なら、ふたりの伯爵を魅了できたはずだと思い、ヘレーネは今の自分の魅力に少し自信を失った。
アルテリスはともかく、村娘のマリカにも負けた気がした。
アルテリスは、もう今の自分にとって恋すべき運命の女ではないのだと思い知らされた気がして、ヘレーネは前世からの恋の終わりを感じ、とても悲しかった。
頭では前世のリィーレリアではないヘレーネなのだとわかっていても、心がつらかった。
傷心のヘレーネは、リヒター伯爵領へ向かっていた。そして、祓魔師の末裔カルヴィーノも、前世の恋人の子爵リーフェンシュタールと惚れてついてきたシナエルとの恋に悩みながらリヒター伯爵領へ向かっていた。
フリーデもまた悩んでいた。