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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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魔獣変化-4


「セスト、ルヒャンの都に暮らして、他の平原の国の街で暮らすのと、生活の違いはあったか?」

「あまり変わりはなかったです。俺の生まれた家が、服の仕立て屋だったからかもしれませんけど。市場で食べ物を買って、店で服を売ったり、直したりしてお金をお客さんからもらって。細工師見習いになっても、売り買いする感じは同じです」

マキシミリアンの質問の意味がわからずに、セストは答えた。

「王族や貴族も、食べることや眠ることは変わらない。泣いたり、笑ったり、くしゃみをしたり、あくびもする。生活といっても、生き物としての生活は、大きな差はない。そこまではわかるな?」

セストとセレスティーヌは、うなずいて話を聞いている。

「平原の国の街と、ルヒャンの都。場所と名前以外で、何がちがう?」
「獣人族の人数がちがいます。ルヒャンのほうが多いです」
「うん、他には何がちがう?」
「ルヒャンの都には、貴族階級の人がいません。あと、奴隷も」
「うん。奴隷はいないし、いつも景気がいいところだな」

平原の王国の街には、奴隷が必ず売買されていた。売れる最後の品物は、自分の体。奴隷商人は、売り物である人間に、寝泊まりできる場所や食事を提供する。
王を最も高い階級の頂点として、貴族階級、平民階級、そして奴隷階級と身分階級が分かれている。
しかし、ルヒャンの都には奴隷商人や奴隷がいない。王や貴族もいない。平民階級の人間族、ドワーフ族、獣人族が暮らしている。

「ルヒャンの都には、大陸各地から行商人の獣人族が来て、いろいろな物を売って、他のところで転売できそうな物を代わりに仕入れしている。単純にいえば、それが目的として作られた場所だ」

マキシミリアンは、ルヒャンの都は国ではなくて、ルヒャンの都全体が、ひとつの市場のようなところだと、エルフ族のセレスティーヌに説明した。

「もともと、どうして村や街や国ができあがったのかを考えてみると、身分階級がある理由がわかってくる。セスト、どんなところなら、人が暮らしやすい?」
「うーん、食べ物や飲み水があって、雨風や暑さ寒さがしのげる家があるところでしょうか?」
「そうだね。大昔は、さらに獣に襲われない安全なところが暮らしやすかったわけだ。では、ひとりで旅を続けているのと、ふたりで家で暮らしていて、くつろいで話をしたり、一緒に眠ったりしているのでは、どちらが快適かな?」
「ふたりで暮らすほうが快適ですよ」
「セストが、ひとり旅のほうが快適と言ったら、どうしようかと思った。ロエルとの暮らしは、旅の暮らしよりかは快適なんだな」

マキシミリアンは冗談をまじえながら、それぞれ単独で暮らしていた人間族が、伴侶と共に行動するようになって、鳥が巣を作るように、すみかを作ったところから、群れが始まると話した。

「ふたりが暮らしていくのに便利な場所は、他のふたりにも便利な場所だから、人が集まってきて、水や食べ物の取り合いや、喧嘩にならなければ、近くで暮らし始める」
「マキシミリアン、水や食べ物の取り合いをせずに、分け合ったりしないの?」
「セレスティーヌ、自分の妻と他人の妻が、どっちも5日ぐらい何も食べていなくて、果物を半分ずつで分けたら、どちらも死んでしまうとするよ。果物はひとつしかない。さて、どうする?」

セストとセレスティーヌは顔を見合せてそれぞれの答えを言った。

「妻に食べさせます。他人の妻を残酷かもしれないけど、見捨てます」

セストは悩んだあと、困った表情でマキシミリアンに答えた。

「他人の妻に食べさせます。他人の妻なら、他人の夫は果実を探しに行っているかもしれない。戻ってきて自分の妻が死んでいたら、恨まれるわ」

エルフ族のセレスティーヌは、マキシミリアンの顔をまっすぐ見て答えた。

すると、ふたりの答えを聞いたマキシミリアンが、ため息をついて言った。

「ふたりとも、自分は餓死するわけだ」

ここで魔族ならどうなるか、ということもふまえて、マキシミリアンは人間族の群れの習性の話をした。

「飢えた3人が魔物なら、一番弱っているひとりを襲って、ふたりが生き残るために食べる。ひとりの分の肉と果物を分け合って」

セストは、この工房にいる3人が魔物なら、自分が餌だと思った。

「人間族は、果物のありかを知っているから、また持ってくるかもしれない者を生かしてきた。飢えても待っていることしかできない妻たちは、待ち続ける。果実を食べた夫は、今度は3つの果実を持ち帰るために、すぐに急いで出かけていくわけだね。こうして人間族は、群れを維持してきた」

つまり、人間族の最初の群れで一番重要な役割があると認められた者は、餓死しない。その代わり、他のふたりのために約束する。次は3人分の果実を持ち帰るから、と。

「3人で平等に果実を分け合って、平等に生き残れるか試す、というのが、神聖教団の平等という考え方で、これが一番危険だね。全滅する可能性がある」

人間族は群れの中で、誰が生き残るべき存在か、優先順位をつけたがる習性が強く残っていると、マキシミリアンはふたりに言った。

「この習性が、身分という考え方の根底にある。王が一番偉い。次に、貴族が偉い。平民は平等で、奴隷は一番弱い立場と決めて、生き残る優先順位をはっきりさせてきた。エルフ族や獣人族や魔物とはちがう習性がある。でも、セストは、妻に食べさせたいから果実を探しに行く感じだろう?」
「そうですね」
「俺もそうなんだけど、セレスティーヌは、果実を他人の妻に譲るとか言うんだぞ。すごいだろう!」
「ロエルだったら、どうするかしら?」

セレスティーヌにセストは質問されて、想像してみたら、思わず笑った。

「お師匠様がむしゃむしゃ食べて、そのあと自分で全員分の果物を探しに行ってしまう。俺が今度は、留守番をすることになりそうです」


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