肉欲の宴-3
オルコット夫妻がまとめているアドラムの村は、60人ほどの住人と、15人ほどの奴隷が暮らしていた。
村長のアドラムが果実酒作りを始めた。
オルコットは少年の頃から、アドラムの助手として働いている村人だった。
アドラムが亡くなると、その娘のシンシアと結婚して跡目を継いだ。
村に訪れる獣人の行商人たちは、村の果実酒をおもに、ターレン王国の酒場に売っていた。ゼルギス王国の話よりも、ターレン王国についての噂話を村で話していくことが多かった。
酒作りの職人で村長のアドラムは、70歳まで生きた。48歳の時に、30歳の妻が産んだ一人娘がシンシアである。
シンシアの母親マーサは50歳で亡くなっている。アドラムは妻のマーサを亡くすと、オルコットとシンシアに商売を任せて、2年ほどで妻のあとを追うように亡くなった。
「とてもおいしいです」
24歳の若妻シンシアの手料理と、村の自慢の果実酒で、オルコットはゼルギス王国からの客人をもてなした。
女僧侶リーナが、果実酒のまろやかな味わいに、満面の笑みを浮かべて言った。
オルコットは48歳で、妻のシンシアは24歳で親子ぐらいの年齢差がある夫婦である。結婚4年目の夫婦である。
オルコット夫妻は、ミレイユとリーナに館の客室で良ければ、好きなだけ滞在して下さいと申し出た。
獣人の行商人から、他の村で若い村娘が失踪した噂が、アドラムの村にも流れている。
そこに美人で腕の立ちそうな騎士のミレイユに見廻りの手伝いをしてくれ、とてもかわいらしい女僧侶リーナが、愛と豊穣の女神ラーナの教えを村人たちに聞かせて祈りを捧げてくれたら、村人たちの気持ちも落ち着くだろうと、オルコットは考えたのだった。
ミレイユは傭兵ガルドを探索しなければならないと思っていた。
だが、オルコット夫妻から、村娘の失踪の噂を聞いて、村娘の失踪とガルド傭兵団が関係あるとすれば、ガルドの手下を捕らえて潜伏先を聞き出せることかもしれないと考えた。
また、リーナには、この滞在はいい気休めになるだろうと思った。
ミレイユとリーナは、オルコット夫妻からの滞在の申し出を、ありがたく受けることにした。
すでに村人たちは、蛇神の淫獄の影響を受けて、生々しい淫夢に悩まされていることを、ミレイユとリーナは気づいていなかった。
村人たちよりも、聖騎士ミレイユは魔剣ノクティスがミレイユの夢に介入してくるため、他からの影響を受けにくい。
ミレイユを夢から影響を与えるには、ノクティスの力と同等か、これ以上の力が必要なのである。
村に滞在してみて、ミレイユとリーナが感心したのは、この村の奴隷階級の者たちに対する村人たちの態度が、同じ職人仲間として奴隷たちを受け入れていることであった。
シンシアの母親マーサは、奴隷階級だった。村長アドラムの方がマーサにべた惚れしてしまい、マーサに求婚した。
女性の奴隷を、主人が愛人にすることはあっても、結婚することはめずらしい。
この村では、そうした先例があるため、村人たちも、奴隷階級だからといって軽蔑したり、過酷な労働を強要したりはしなかった。
満月の夜、このアドラムの村で、聖騎士ミレイユは、異変を目の当たりにすることになった。
たまたま、この夜、オルコットの妻シンシアは深夜、寝つけずに起きていた。
ベッドでしばらく抱き合って、オルコットはキスのあと、すぐに挿入した。一度射精して、それで満足したのか、眠ってしまった。
シンシアは眠っているオルコットの隣で声を抑えながら、自分の火照った体を慰めていた。
オルコットの名前を小さく口に出しながら、濡れている蜜穴を指先で弄り、びくっと身を震わせる。達して乱れた呼吸が落ち着くのを目を閉じて待っていた時だった。
オルコットはベッドからゆっくりと起き上がったので、自慰をしていたのが見つかったと思い、シンシアは気まずく、寝たふりでごまかすことにした。
寝返りをうつふりをして、オルコットに背中を向け目を閉じていると、オルコットはベッドから抜け出して、寝室から裸で出て行ってしまった。
(オルコットったら、トイレに行くにしても、裸でなんて。廊下でお客様に会ってしまったりしないかしら)
オルコットが、ベッドになかなか戻って来ない。不安になり、服を着るとシンシアは寝室を出て、館内を探した。
(……疑うなんて、いけないことだけど。女神よ、お許し下さい)
シンシアは、客室の扉の前で耳を澄ましてみた。それらしい物音は、何も聞こえない。
一階の玄関の大扉が、わずかに開きっぱなしになっている。外は満月の月明かりで館内よりも明るい。
夫のオルコットが深夜に裸で、靴も履かずに、外へ出かけて行った。
その意味がまったくわからず、シンシアは、気味が悪いと思いながらも、館の外へ、夫を探しに出かけた。
部屋の外に人の気配を感じた女僧侶リーナが、目を覚ました。
しばらく部屋の扉の前にいたが、立ち去って行ったので、リーナがミレイユを起こそうとすると、ミレイユもベッドに横たわってはいたが、すでに目を覚ましていた。
ミレイユとリーナも館の中を歩きまわって、オルコット夫妻が館にいないことがわかると、館にリーナを残し、ミレイユは魔剣ノクティスを手に外へ出た。
「夫婦で深夜に満月をながめながら、散歩に出かけているだけなら、二人はじきに戻ってくるだろう。大扉の鍵をかけてはいないところをみると、館のそばにいるのかもしれない」
夫妻が戻って玄関の大扉に鍵をかけられてしまったら、館の中にミレイユは入れない。二人が戻ってきたら、中から夫婦の寝室から遠い、1階の廊下の窓の鍵を開けてくれと、リーナに頼んだ。
リーナには言わなかったが、魔剣ノクティスから、警告を伝える氷のように冷たい感触をミレイユは感じていた。
館の外に敵がいるようである。